AKB傷害事件とオーストラリア国会議事堂

AKBの握手会で暴挙を働いた男が逮捕されました。負傷した女の子やスタッフには深く同情します。

ただその一方で、人間って、誰かを傷つけたり、殺害したりしようと真剣に思えば、その機会は絶対に廻ってくるものだとも思います。ターゲットにされてしまった側にしてみると、ある程度は警戒できても、24時間365日、完全に隙を作らないなんてことは不可能です。一般人であればもちろん、警察が保護してくれるような政治家・芸能人であっても、完全なガードを永遠に続けることは不可能でしょう。

もちろん、加害者には法的・社会的な処罰が与えられるわけですから、普通の人間は冷静に計算して、そうした行動を実行に移すことはありません。人を呪わば穴二つ。

しかし、常軌を逸した怒りや嫉妬に駆られ、どす黒い情念をターゲットに向け続ける人が現れない保証はありません。一旦そうした人が現れれば、悲劇的な結末を避ける術はないように思います。

そうした人にとっては、ターゲットに危害を及ぼすことこそが「生きがい」なのであり、それを完結させることが出来るのであれば、残りの人生は棒に振っても一向に気にならないでしょう。というより、相手に危害を及ぼし破滅させることこそ、人生の究極的な到達点であると考えるのでしょう。こうした人に死刑を初めとする処罰をちらつかせても何の効果もありません。

そういう意味で、社会の安寧秩序や人命というのは、とても脆いものだといつも思っています。もちろん、自分が上記のようなことをしようと思っているわけではありませんよ。念のため。


どうしてこんな話を書いているかというと、今日の国際ニュースで、下記の記事を読んだのがきっかけ。

豪議員が議会内に「パイプ爆弾」持ち込む 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

オーストラリアのベテラン上院議員が26日、首都キャンベラ(Canberra)の国会議事堂に「パイプ爆弾」を持ち込み、今月から緩和された議会の警備体制の問題点を指摘した。

(中略)

 上院委員会の公聴会に出席した与党保守連合・自由党所属のビル・ヘファーナン(Bill Heffernan)議員は、パイプと棒状のダイナマイトのような物体を掲げ、「やりたい放題なのは明らかだ」と警備体制の緩和を批判した。

(中略)

 ヘファーナン議員は、議員を始め身分証を提示した一部の人が身体検査も持ち物検査も受けずに入館できてしまう新しい警備体制の下では、これまで安心して働けた議会内に勤める多くの人の安全が脅かされると主張。「議会はもはや安全ではない。それを示すため、私は今朝、保安検査を通り抜けて、パイプ爆弾かもしれないこれを持ち込んだのだ」と述べた。
(上記記事より引用)

オーストラリアのベテラン上院議員が、国会議事堂の警備体制の不備を証明するため、自らパイプ爆弾類似の物体を議会場に持ち込んだ、しかもいとも簡単に、という話。

その気になりさえすれば、国会議員全員を殺害することも不可能ではないというこの話、思い当たる節があります。

大学生の頃、オーストラリアを旅していたことがあるんですが、その際、キャンベラにも立ち寄りました。その頃はホントに何もない人工的な政治都市で(今もだと思う)、とにかく蠅が多いのが印象的な町でした。常時顔の周りを蠅がブンブン飛び交うので、だんだん慣れてきて、顔に止まっても気にならなくなってきます(笑)。

さて、その頃は自動車の免許も持っていなかったので、自転車でキャンベラの町をウロウロしたんですが、とにかく馬鹿でかい町に、少数の政府機関がポツーンポツーンとあるだけ。大阪や京都のせせこましい町並みに慣れた私には、距離感が全然掴めません。

国会議事堂がかなり近くに見えるので、自転車なら10分程度だと思って走り出す。暑いなぁ〜、フゥフゥ。と、前を見ると国会議事堂と自分の距離が全く変わっていない。あれっ?

漕いでも漕いでも全然近づかないんですよね。何もないところで遠くに建物が一つだけあると、ここまで距離感が掴めなくなるのかと、とても新鮮だった覚えがあります。

やっとの思いで到着し、手続きを済ませた上で、議場に入ります。確か下院と上院の両方の議事を見たような覚えがあるんですが、議場は驚くほどシンプルかつ狭い。英国の議事堂もそうだと思いますが、とにかく質素です。

でも、真剣な議論の場と考えれば、日本のような過剰な権威主義的装飾は不要ですし、広ければ活発な議論になりにくいはず。これはこれで、一つのあり方だなと思いながら傍聴席に座ることしばし(この傍聴席も議員のごく近くにあります)。

で、何気なくポケットに手を入れてドキッ!折り畳みナイフをポケットに入れてしまっていたのでした。ご存知の方も多いと思いますが、旅行者にとって、ビクトリノックスのスイス・アーミーナイフはとても便利な製品。旅行中は常にポケットに入れていたのでした。

「もし俺がテロリストで、ナイフ投げの修練を積んできた人間だったら、これ、確実に命を奪えるよな……って、警備員にこのナイフが見つかったらエライことになりそうやんか〜!」

確かに大型のナイフではありませんが、見つかって拘束されたらかなり面倒くさいことになりそうです。何事もなかったかのように傍聴席をス〜ッと離れ、そそくさと議事堂を後にしたのでした。

後でよく考えてみると、入場前にボディチェックを受け、金属探知機も通らされたのに、全然反応しなかったんですよね。何か甘々のセキュリティやんか。

オーストラリアの国会議事堂でテロが起きたという話も聞かないので、それで良いのかもしれませんが、本気で悪事を働こうという人間が現れたときは、困ったことになりそうです。

人々がそうした思いを持たなくてすむ社会を構築することが、最良の方策なんでしょうが、それはほとんど絵空事のような話です。「最良の社会政策は最良の刑事政策である」という高名な学者の説に私も賛同はしますが、人間の精神に多かれ少なかれ「暗い情念」があることを考えれば、上記のような理想的社会を人間が築き上げることは、永遠にない気がします。

何か悲観的な話になってしまいましたね、すみません。