最近、ふたたび小排気量のオフロードバイクによく乗るようになっていまして、その関係から農道や林道を好んで走っています。時にとんでもない道に出会うことがあって、それはそれは楽しいんですが、その話はまたの機会に。
今日取り上げたいのは「狭小」という熟語です。
先述の通り、農道や林道は極めて狭い道であることが多く、バイク同士のすれ違いも難しいような道が時々あります。そこまで行かずとも、車同士のすれ違いが極めて困難な道は稀ではありません。
そんな場所には、ドライバーに注意を促すべく、「幅員狭小」と表示されていることがありますが、先日見かけたのは次のような路面表示。
「この先幅員狭少」。以前、この場所にこんな表示はなかったんですが、離合困難なサイズの車同士でトラブルが起きることもあったのか、つい最近出現した路面サインです。
それなりにスピードを出していても、表示を見落とすことはないつもりですが、走っていて何かが頭の片隅に引っかかります。何となく、車輌運転とは関係のない頭の部分に引っかかるような気が……。二つ目に現れる路面サインに注意しながら走ってみて分かりました。「幅員狭『少』」という漢字が引っかかるんだ!脳内の仕事モード・勉強モードに引っかかっていたわけですね。
仮にバイクで疾走しながら難読漢字を次々に読むという競技?があれば、多分日本最高レベルの競技者になれる気がするんですが、そんな競技はこの世にありません(笑)。
その日は気になって出てくる看板をよく見ながら走っていたんですが、上記以外のところはすべて想像通り「幅員狭『小』」となっていました。
そうだよな〜、「狭くて小さい道」なんだから「狭小」が正しいはずだよな。「狭くて少ない道」というのは不自然だし。「広大」の対義語として考えても、「狭小」の方が納得しやすいよな。ただ、路面にプリント施工する業者は、こんな仕事、日常的にしているはずだし、間違うものかなぁ……?
そんなことを考えながら帰宅。速攻で調査です!
まず、三省堂国語辞典(第7版)、三省堂新明解国語辞典(第8版:今月発刊されたばかりの新版です!)、三省堂大辞林(第4版)は、「狭小」のみの表記です。やっぱりな、路面表示「狭少」はミスプリントというわけか……。
三省堂の電子データが便利なのでそればかり使っているんですが、ちゃんと大御所、書籍版の日本国語大辞典(第2版)にもお伺いを立てておくかと第4巻をめくってみると、何と「狭小/狭少」両者が併記されているではないですか!
意味は「せまくて小さいこと」とあって、他の辞書と大差ないんですが、ここは用例を見て頂きたいところ。
正法眼蔵が「心量狭少なり」、実隆公記が「下段立屏風令置之、狭少不便不便」としています。
前者が「心が狭くてセコイ」後者が「下段に屏風(びょうぶ)を立てて置かせたら狭くるしくて不便だな」というぐらいの意味ですが、いずれも「少ない」イメージはありません。それでも「狭少」でいいんだ……。
漢辞海を調べてみると「少」には「ちいさい」という解釈も挙げられているので、漢字の意義をそう解釈することで納得するしかないでしょうね。
結論。「狭小・狭少」いずれの表記も正しい。
ちなみに、中学受験生・大学受験生に「少」で覚えて欲しいのは「わかい」という語義ですね。「少年」「少壮」なんて熟語を思いだしていただければ。
そうそう、「狭小/狭少」の類義語として「狭隘(きょうあい)」なんて語も知っておくといいですね。これは大学受験生向きですけれど。