小学生理科の話です。
小学5年生は、インゲンマメを素材にして、「植物の発芽条件」を学ぶんですが、ブログをご覧の大人の皆さん、インゲンマメの発芽条件を三つあげることが出来るでしょうか?
正解は次の通り。
1.水
2.空気
3.適当な温度
以上の3条件が満たされたときに限り、インゲンマメの種子は発芽します。よくテストで「光」は必要かと聞かれますが、インゲンマメの発芽には関係ありません。間違わないようにね。
はい、授業終わり。
ここまでの話は、学校でも習いますし、当塾でもしっかり教えます。比較実験の基礎の基礎を学ぶ単元でもありますが、それほど難しい単元ではありません。
で、ここからがブログでの本題です。
よく考えてみると、上記の発芽条件、少し妙な気がしませんか?
確かに水・空気・適当な温度がなければ、発芽しても生育できませんから、この三条件が揃わない限り発芽しないというのは、植物として合理的な戦略だと言えます。
しかし、発芽しても「光」がなければ、光合成ができないはず。水や空気中の二酸化炭素があっても、肝心の光がなければ、自ら栄養をつくり出すことができないわけです。
光の有無を確認せず、上記の三条件だけで発芽してしまうというのは、植物としてかなり愚かな戦略ではないのだろうか?発芽した後、成長できないのが分かっていて発芽していいのか?ノリで発芽するイケイケ戦略で本当に大丈夫なのか?(笑)
小学生に「植物の発芽条件」を教える度に、腑に落ちない気分でいたんですが、最近読んだ本に蒙を啓かれました。
洛南高校附属中学校の入試問題の題材になっていた文章が面白かったため、購入した本です。農学博士が一般人に植物の不思議な生態を説いてくれる本なんですが、目から鱗が落ちることしきり。
私、大学受験の際に生物を取りましたので、生物もそれなりに勉強したつもりなんですが、知らない話だらけです。
種子の発芽条件について引用してみましょう。
自然の中を自分の力で生きていかねばならない植物が光の当たらない場所で発芽したら、どんな運命をたどるかは、容易に想像がつく。発芽した直後の芽生えは、種子内に貯蔵していた養分で、しばらく成長する。しかし、その後は光合成によって栄養をつくらねばならない。光が当たらなければ光合成ができず、自分で栄養をつくれないから、やがて枯れてしまう。
自然の中を、自分の力で生きていくためには、「発芽後も成長できる光が当たっているか」を、見きわめねばならない。「光が当たらない場所では、発芽しない」という用心深い性質を、身につけていなければならない。
(中略)
「植物の約七十パーセントは、発芽するために光が当たる必要がある」という結果を示す。発芽に光を必要とする身近な植物は、シソ、ミツバ、レタス、ツキミソウなどである。田中修『ふしぎの植物学―身近な緑の知恵と仕事』(中公新書) P26より引用
やっぱりそうなんだ!
7割の植物が発芽に光を必要とするわけですから、学校で教えているのは例外的な事象、ということになりますね。
発芽に光を必要としないのは、ダイズ、インゲンマメ、カイワレダイコンなどの「栽培植物」、つまり、人間によって光が与えられる植物であるということも記されています。
より詳しく言うと、光の中でも赤色光がもっとも発芽を促進し、遠赤色光は発芽を抑制します。これは植物の葉が青色光と赤色光をもっともよく吸収して光合成に役立てること、遠赤色光はほとんど吸収できず光合成に役立たないことに対応しているとのこと。
植物、恐るべし!
この本、他にも面白い話だらけなんですが、ナシの二十世紀は、接ぎ木だけで増やされるものであり、食べた後の種子をまいて育てても、全然別の品種になってしまう話なんかは特に面白いですね。
なお、小学生にこういう話をすると余計に混乱するので、授業では一切取り上げないようにしています。まず教科内容をしっかり頭に入れてもらうことが先決です。