私は人の書評や読書案内を読むのが大好きです。その人がどんなものを読み、どう考えているのかを知ることは、とても面白い。下手な自己紹介をしてもらうより、どんな書物を読み、どんな音楽を聴いているかを教えてもらう方が、その人の立っている場所が分かるような気がするのです。
先日読んだのは、小川洋子『心と響き合う読書案内』。
かつて、TOKYO-FMで「未来に残したい文学遺産を紹介する」という趣旨のラジオ番組が放送されていたそうなんですが、その番組で小川氏がお話しになったことが、一冊の新書になっています。
取り上げていらっしゃる書物は決してやわらかいものばかりではありませんが、小川氏のお話自体は、堅いものではありません。リラックスしたムードで、本好きな人と話している様な気持ちになります。
いい本を読むと、周囲の人についお喋りしたくなります。まるでその本を読んだこと自体が自らの手柄であるかのように、どこがすばらしいか自慢げに語ってしまいます。相手が同じ本を読んでいれば、話はいっそう盛り上がるでしょう。
(上記『心と響き合う読書案内』より引用)
そうですね。全く同感です。しかも、語って下さる、いや、語り合ってくださるのが小川洋子氏。これは最高の人選と言わねばなりますまい(私も副代表も、読書の嗜好は結構異なるんですが、二人とも小川洋子氏については、その才能を高く買っています)。
読んだことのない小説については是非読もうという気にさせられ、読んだことのある小説は、「そうそう!そこが素晴らしいんですよね」「おっ、そんな読み方もありましたか」などと思わせられます。小川氏の巧まぬ話術(?)にスッと引き込まれ、いつしか文学世界の地上に立っている自分に気づく、そんな読書案内なのです。
案内されている作品を少し紹介しましょう。
梶井基次郎『檸檬』
川上弘美『蛇を踏む』
中勘助『銀の匙』
梨木香歩『家守綺譚』
フランソワーズ・サガン『悲しみよこんにちは』
カレル・チャペック『ダーシェンカ』
ベルハルト・シュリンク『朗読者』
清少納言『枕草子』
ロアルド・ダール『チョコレート工場の秘密』
などなど。
日本海外・現代古典の別は全く問わず、ただ「文学遺産として長く読み継がれてゆく本」という一点のみを基準として選ばれたそうですが、素晴らしい「選本眼」であります。
私の場合、『銀の匙』は高校生の頃に読んだんですが、衝撃をもって受け止めた覚えがあります。少年期の思い出が宝石のように結晶した作品。夏目漱石が激賞したという話が有名ですが、漱石を読む時間があるなら、『銀の匙』を読めと言いたいぐらいの名作です。少なくとも、高校生の頃の私はそう思ったんですが、今の年齢になって読めばどんな感じがするのか。そのうち再読してみたいと思います。
川上弘美・梨木香歩・シュリンクが紹介されているのは、とても納得がいきます。小川洋子氏を含めて、彼ら・彼女らの作品は、私の心の中にある読書棚のだいたい同じ所におさめられているからです。私なりに言えば、「静謐な世界、でも一筋縄ではいかない世界」を描いている作品です。
長くなってきたので、今日はここまで。
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