「熟語本位 英和中辭典」(英和中辞典)

熟語本位 英和中辞典 新増補版
斎藤秀三郎 /  豊田 実

熟語本位 英和中辞典 新増補版

今日から12月、色々忙しい時期ですね。特に受験生の皆さんには体を大切にしてもらいたい時期です。

今日は辞書について。またですか、と言われそうですが、気にしない(笑)。辞書マニアなので、ネタは尽きないんですが、今日は誕生日プレゼントとして家族からもらった辞書の話です。

少し前の話になりますが、今年8月、以前から気になっていたものの、購入にまで至らなかった辞書を、家族に誕生日プレゼントとして申告しました。

我が家のプレゼントシステム(?)は自己申告制。「いらないものをもらっても仕方がない」という考えのもと、今度のプレゼントは○○が欲しいという風に家族に申告することになっています。

閑話休題、その辞書は、齋藤秀三郎著「熟語本位 英和中辭典」。大正4年(!)に初版が発行された辞書にもかかわらず、現在も「現役辞書」として岩波書店が取り扱っています。

帯にはこう書かれています。
「英語学の記念碑的名著」
「英語を教える人々、研究する人々の必備の辞典」
「英語研究者必携の辞典」

確かに、普通の辞書とは違います、いや、違いすぎます。
活字はもちろん、旧字体。表現も擬古文調。訳や解説を読むこと自体、今の高校生・大学生には辛いかもしれません。

例えば、一例を挙げてみると、

“true”
眞の,有りの儘の。實の。眞實の。まことの。本當の。
My prediction has come true.
僕の豫言が當つた。

旧字体のオンパレードです(旧字体をコンピュータで扱うのは面倒だ…)。しかも活字はかなり潰れ気味。

“hear of”の例文はこんな風。

I will not hear of such a thing.
そんなことは承知せぬ(厭ぢや厭ぢや)。
Very well, you will hear of this.
是に就いては何分の沙汰をする(捨て置かれぬ)。

しかし、その解説の充実具合、語釈の鋭さは、未だもって古びてはいません。だからこそ「現役辞書」として販売されているんでしょう。これはひとえに、齋藤秀三郎という怪物学者のパワーによるものなんでしょうが(この人についてはまたブログを書くつもりです)、本当に凄い。

例えば、”with”という語。
この辞書では、説明に11ページが割かれています。現在の学習英和辞書としてもっともポピュラーなものだと思われるジーニアス英和辞典第4版ですと、約2ページ。いかに基本語彙の解説に手厚いかがお分かりいただけるかと。

もちろん、新語や新しい意味は一切収録されていませんが、そんなことに文句を付けるべき辞書ではありません。高級寿司店はハンバーガーなど扱う必要は無いでしょう。

日本語を母語とする人間が英語を極めていくと、むしろ、「日本語の問題」または「言葉そのものの問題」に行き着くのだろうと思います。そういう意味で、齋藤先生のこの辞書は、「英語」を超え、「日本語」・「言葉そのもの」を磨く辞書としてこれからも生きてゆくのでしょう。

アマゾンのコメントなどを見ると、これで英語を勉強した翻訳家も多い様子。むべなるかな。私も、この辞書を「調べる辞書」としてではなく、「読む辞書」として活用したいと思っています。

興味を持たれた方はリンク先のコメントもどうぞ。

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