文学作品と心情読取・皮肉嫌味と共感力

国語・読解力に関係したニュースをご紹介。

まず一つ目は次の記事。

文学作品をじっくり読むと、人の表情からその心情をうまく読み取れるようになると判明:米研究 – IRORIO(イロリオ)

米ニューヨークの総合私立大学〈ニュー・スクール〉の心理学者たちが、ボランティアの被験者たちに、俳優の目の表情からその心情を読み取ってもらう実験を行った。まず本を何も読んでいない状態で表情を推察してもらい、その後、文学作品(イギリスのオレンジ賞、アメリカの全米図書館賞などの受賞作品)、大衆小説(ロマンス小説やミステリー)、ノンフィクションを読んでもらい、再び俳優の目の表情を読み取るテストを行ったところ、大衆小説とノンフィクションを読んだあとは表情の理解度にこれといった改善は見られなかったが、文学作品を読んだあとは、理解度が著しくよくなっていることが分かった。
(上記リンク先より引用)

面白い実験ですね。「文学性の高い作品を読むと、他人の心情を読み取ることが上手くなる」という結果が出たわけですが、なかなか興味深いものがあります。

私が国語を教えていてよく感じるのは、上記結論そのものではなく、上記結論を逆にした事実です。つまり、「他人の心情を読み取ることが上手い人は、文学性の高い作品を読みこなしやすい」という事実。

論理的文章(説明文や評論文)は別として、文学的文章(小説や随筆)の場合、他人の気持ちをくみ取ることが巧みな人ほど、文章を読み取りやすくなるのは間違いないだろうと思います。実際、小学生を教えていると、たいていの場合、女子の方が男子より小説・随筆の読解問題の出来が良いんですが、これは女子の方が男子より精神年齢が高い、つまり他人の気持ちをくみ取るのに長けているということから来ているのでしょう。

男子というのは総じて(私も含めて)、脳の構造がそうなっているのか、がさつで人の気持ちに鈍感なものですが、女子は幼い頃から人の気持ちにきめ細かく寄り添うことが出来る存在。「小説問題が苦手で登場人物の感情を読み取れません」という話を聞くのは、たいていの場合男子なんですよね。時々、女子から「登場人物の感情を読み取れなくて困っている」という話を聞くこともありますが、そういう子は算数や理科の方が得意だったりします。発想や頭脳構造がどちらかというと理屈を重んじるタイプなんでしょうが、理屈と感情の関係を示しているようで興味深いところです。

「文学作品を読めば、感情を読み取るのが上手くなる」「感情を読み取るのが上手くなれば、文学作品が読める」この二つの命題、論理学で言うところの「逆」の関係にありますので、厳密に言えば、それぞれに証明が必要になります(逆は必ずしも真ならず)。しかし、両命題が密接に関係していることは、直感的に正しいという気がします。

私なりにまとめると、「恋をすれば文学が分かる」「文学が分かれば恋人が出来る」といったところでしょうか。

いや、絶対に違うな(笑)。


二つ目は次の記事。

皮肉や嫌味がわからない人は共感力が低いと判明:大学調査 – IRORIO(イロリオ)

8歳〜9歳の被験者31人に対して、人形を使って皮肉を理解しているかテストを実施した。風刺的な人形劇と、そうではない人形劇を観た後、人形が皮肉を言っていたと思ったら意地悪なサメの人形を、本心を話していたと思ったら善良なアヒルの人形を選んでもらった。その結果、子どもたちはほとんどの皮肉を理解しており、共感力の高い子どもは低い子に比べて皮肉を正確に判断する力が2倍だったという。
(上記リンク先より引用)

先程の話とパラレルな話だと思います。「皮肉」「嫌味」という表現を理解するには、高度な読解力・理解力が必要ですが、その読解力・理解力の根底には、「共感力」とでも呼ぶべきものが横たわっているという話。

人の立場に立って共感するということは、社会性を有する人間にとって必要不可欠なことであり、おそらく人間進化の途上で磨かれてきた能力であろうと思うんですが、国語という科目(特に文学的文章の読解)はその「共感力」を試される科目だと言えるかもしれません。そんな「共感力」なんて無いよという人も、こと入試に関してはトレーニングで何とでもなりますから、心配無用ですけれど。

大人の現実社会では、「皮肉」を文字通りに捉えてしまうと大変なことになってしまいますので、「共感力」を身につけておく事は結構大切なことだと考えています。どちらかというと、教室よりも家庭で学ぶべき事ではありますが。

なお、共感した後で、自分がどういった行動を取るかはまた全く別の問題です。共感して他者と歩調を合わせることもあるでしょうし、共感するもののあえて他者と異なる行動を取る場合もあるでしょう。共感力を付けるということは、付和雷同的になるということではありません。念のため。