昨日、出先でお昼のテレビを眺めていると、「間違いやすい言葉」を取り上げていました。バラエティ番組とはいえ、金田一秀穂先生が出ていたので、大人でも難しいような言葉でも取り上げているのかなと思いきや、私が毎日のように説明している言葉、つまり中学受験生なら知っておきたいというレベルの言葉ばかり。
例えば、「気が置けない」「敷居が高い」「役不足」「姑息」といった言葉がクイズ形式で出題されるわけです。で、ゲストの解答者達が見事に間違いまくる。大人なんだから、しかもテレビに出てある意味「言葉」を仕事にしているんだから、正確な意味を知っていても当然だと思うんですが(ひょっとしたらシナリオにしたがって「間違っている」のかもしれないけれど)。
でも、よく考えてみますと、大人でも間違うような言葉を、中学受験生は知っていないとならないわけで、それだけ中学受験国語のレベルが上がってきているとも言えるかもしれません。
今日は中学入試国語の難化について、良質な記事をご紹介します。
中学入試で出題される驚きの国語問題…開成・麻布・武蔵の難語、渋幕・渋渋の難解すぎる論説文 | FRaU edu
著者のプロフィールを拝見すると、30年にわたり中学受験を指導されてきたとのことで、記事内容は信頼が置けますね。以下引用部分は上記記事からのものとなります。
中学入試国語で扱われる文章中の「語彙」に焦点を当てて、問題レベルの変化(難化)を考察していらっしゃるんですが、難関中学の具体的な出題語彙は下記の通り。
《1976年度・国語入試問題で題材になった文章に含まれる難語》
麻布:動悸・そぶり・あか(垢)・強要・閑散・ユーモア
開成:色彩・単調・術・憎悪・批評・暫定的・悲惨・気ぜわしい・気がとがめる
武蔵:けんやく(倹約)・ゆうかん(勇敢)・けわしい(険しい)・破産・給仕
※上記の「難語」については注釈を付しているもの、また固有名詞は除きます。
まあ、難しいといえば難しいですが、勉強の得意な小学6年生なら、これぐらいの言葉は知っているでしょう。特に厳しい要求だとは思えません。
それが2024年段階ではどうなっているか。
《2024年度・国語入試問題で題材になった文章に含まれる難語》
麻布
蘇る・釘付け・蘇る・堪える・沁みる・譬え・遮る・庇う・邪見・相応しい開成
大腿部・下脚・捉える・推進力・生態心理学・凹凸・分岐・微細・唸る・無垢・過酷・疾駆・光明・醍醐味・粘着質・保守的・滓・不倫・オーラ・滲む・鬱蒼・祀る・祟り・丁重・蘇る・おどろおどろしい・虚ろ・おずおず・促す・いびつ・鬱陶しい・疎ましい・募る・企む・見惚れる・上気・抗う・渾身・逸らす・刺青・畏れる・禍々しい・ぬめる・まがいもの・異端・忌み嫌う武蔵
惹く・雪崩れる・てんで・興がる・総体・概して・あながち・依怙贔屓・誇張・首尾よく・復讐・赴任・異様・対照・垢・羞じる・腕白・茶目・暫く・鎮まる・稀・驚異・虱・異端者・綴る・依る・委細・惚れぼれ・かじかむ・擦る・囚われる・兜を脱ぐ・茫然・遺憾なく・破格・色沢・共鳴・称す・金切声・甚だしい・味噌をつける・蟠り※上記の「難語」については注釈を付しているもの、また固有名詞は除きます。
重複があるものの、貴重なデータですね。皆様はいかがご覧になりますでしょうか。
明らかに出題文章中の語彙レベルは難化していますよね。それも飛躍的に。難関中学だからだとお思いかもしれませんが、これらの難関中のみならず、その他の中学についても同様の傾向が見られ、加えて出題文章自体が「大人の読み物」ばかりになっていることが指摘されています。
例として、渋谷教育学園幕張中の出題文章。
近年の物語文の出典を挙げてみると、三島由紀夫『豊饒の海』(2020年度・1次)、菊池寛『極楽』(2021年度・1次)、平野啓一郎『本心』(2022年度・1次)、津島佑子『近現代作家集 III/日本文学全集28』所収「鳥の涙」(2023年度・1次)、志賀直哉『或る朝』(2024年度・1次)……。古典的な文学作品を好んで取り上げる傾向にある珍しい学校ではあるが、これらの読解問題に小学校6年生が挑むのかと驚かれたことだろう。
三島由紀夫『豊饒の海』は私も読みましたが、初めて読んだのは高校生の頃でしたし、平野啓一郎『本心』は先に購入していた妻からもらってお盆休みに読むつもりでいてまだ未読、津島佑子・菊池寛・志賀直哉についてはこのブログでも取り上げたことがありますが、小学生向けに取り上げたわけではありません。
つまり、「大人の読書」が要求されているわけですね。この学校は論説文も大学受験レベルの文章を出題することが説明されていますが、2024年度の入試に出題された文章中の難語がそれを雄弁に物語っています。
(第1回)
ミスリーディング・想起・ゲノム編集・外界・介する・享受・牙を剝く・凌駕・服従・無尽蔵・枯渇・苛まれる・収奪・依存・倫理的・崇拝・搾取・哲学・模倣・摂理・覆す・反駁・契機(第2回)
言語行為論・焦点・充足・窺う・益する・恩恵・アコモデーション・概念・あけっぴろげ・促す・誤認・社会的条件・リアクション・相応しい・誘発・枠(第3回)
トレーディング・遂行・現行・必然性・核心・営為・真善美・勃興・思し召し・摂理・モチーフ・伝播・活況を呈する・希求・回帰・君臨・経済合理性・ルネサンス・高揚・情緒・紐帯・集積※上記の「難語」については注釈を付しているもの、また固有名詞は除きます。
かなり難解な言葉が並んでいることに驚かれるのではないでしょうか。「知的レベルが高めな大人」の語彙ですよね。私の仕事はこうした言葉を小学生の理解に落とし込むことですので、個人的には日々触れている語彙ですが、書籍にあまり触れずテレビやネットだけで暮らしている「大人」なら、圧倒されるかもしれません。
ただ、この記事の良心的なところは、ある程度の対策も教えてくれているところです。
まとめて言えば、「難語を網羅的に覚えようとしても時間的に無理があるので、語義の推測スキルを高めるべし」となるんですが、これには私も同意します。辞書を覚えるわけにはいきませんからね。
ただ、当塾としてはもう少し付け加えておきたいところがあります。
上記記事では、「難語問題集」は不要とされているんですが、個人的にはそれは言いすぎかなと思います。「語義推測スキル」を発揮できるのは、ある程度難しめの語彙や漢字に関する知識があるからこそ。それを補強するために何らかの問題集や参考書を使うのは悪い手ではありません。
実際、当塾では、ある程度難しめの語彙をまとめた書籍を用い、受験勉強の基礎を築いたり、側面から補強したりといった指導をよくしています。こうした基礎力あっての、「コンテキストからの推測力」ですからね。
例えば、上記の「経済合理性」という言葉。「経済」・「合理性」という言葉の意味が分かっていれば、かなり正確にその語義を推測する事が可能でしょう。しかし、その基礎力がなければ、完全にコンテキストに依存することになるため、あやふやな解釈に到達してしまう可能性が高くなるはず。あやふやな語解釈が重なると、文章全体の理解がぐらつきます。
ただ、入試対策が限られた時間の中で行われるものである以上、語彙の習得だけに多大な時間を割くことは、逆に合格から遠ざかってしまうことになります。そこに個人個人に応じた合理的解決策を提示するのが、国語指導塾の腕の見せ所というところでしょうね。
いずれにせよ、「コンテキストからの語義推測スキル」が極めて重要なことに変わりはなく、 受験生とその保護者様たちは、そこに意識を置いて勉強を進めていただければと思います。
このブログにいつも書いていることですが、どの中学も読解力の低い生徒を欲しいとは思っていない、より正確には、読解力の低い受験生をできるだけ門前払いしてしまいたいというのが本音でしょう。読解力の乏しい生徒を入学させた後、苦労するのは中学側ですから。
当塾としては、時間のかかる読解力養成は早め早めに手を打っておくことをお薦めします。ちょっとポジショントークに聞こえるかもしれませんが、私達の本心です。