違法薬物と音楽

このところ、芸能人の違法薬物関連のニュースでもちきりですね。塾の生徒達は「のりピー」の全盛期を知らない世代なので、単に「よく知らない芸能人が悪いクスリをやった」ぐらいの認識しか持っていないようですが、彼女とほぼ同世代に属する私からすると、結構びっくりさせられるニュースです。

先日、生徒に「よくテレビでやってますけど、麻薬で行方不明になっている人って、どんな人なんですか?」と聞かれて、返答に窮しました。よく考えてみると、歌謡曲にはかなり疎い私、「のりピー」の歌を全く知らない。まして、テレビドラマにはほとんど興味がなかったので、どんなドラマに出ていたかもよく分からない。生徒達とあまり変わらない知識レベルであることに気がついて苦笑いです。

いずれにせよ違法な薬物に手を染めるのは、困ったこと。確かに、ミュージシャンや画家といった人達が、その創造力・表現力を限界まで引き出すため、そうした類の薬物を摂取するというケースは枚挙にいとまがありませんが、できれば薬物に頼らないで素晴らしい作品を残して欲しいもの。

……と、ここまで書いてふと思ったんですが、私のように麻薬や覚醒剤に全く縁のない者でも、音楽を愛好する者は、間接的にその恩恵を受けているのかもしれませんね。

50年代のモダンジャズミュージシャン、60年代のロック系ミュージシャンなんかは、ドラッグによってインスピレーションを得て作曲・演奏をしていたケースが多いわけで(過剰摂取で亡くなったミュージシャンも数知れず)、その辺りの音楽を愛好する私は、間接的に恩恵を受けていると言えなくもない。

そう考えると、違法薬物に手を染める芸能人を責めることができないような気も……。いや、大した芸術活動をしていたわけではないので責めるべきなのか?まぁ、私は検察官ではないので、どっちでもいいんですけどね(笑)。

下に映像を挙げたビル・エヴァンスは、1950年代に活動を始めたジャズピアニストですが、何とも美しく端整なピアノを弾く人です(是非ご一聴を)。彼の録音演奏はレストランや喫茶店でしょっちゅう耳にするので、ジャズに興味のない人にも嫌味・クセを感じさせない音楽と評価されているのでしょう。

ところが、このビル・エヴァンス、大変な麻薬・覚醒剤の中毒者だったんですね。その話を初めて知ったときは、かなり驚いた覚えがあります。この端整な音楽を作り上げて行く人が、薬物中毒だったとは。クスリに依存しているミュージシャンの作る音楽は、どこかにクスリ的なムードがある事が多いものですが、ビル・エヴァンスの音楽は、そういう薬物から遠く離れたところにあるような気がしてなりません。

私のような凡才は、こうした天才が骨身・精神・人生を削って作ってくれた作品を気楽に味わうだけ。天才側から見ると、ある意味、ズルく見えるのかもしれません。

Bill Evans – Waltz For Debby