小学生の算数には「作図」があります。正直に言うと、この分野、指導に結構手がかかります。コンパスなどの作図道具を適切に使えているか、作図手順は合っているか、本当に指定通りの長さや大きさになっているか、線や角が歪んでいないか、などなど気を付けねばならない点が多いんですよね。
コンパスなどの作図道具を忘れてくる子も多いので、貸し出したり回収したりという作業もあったりします(笑)。「次はちゃんと持ってこようね」と軽く注意はしますが、お説教をしている(聞いている)暇があったら、私達としてはやはり勉強してもらいたいと思います。サッサと貸し出して、作図指導です。
私達は決して「鬼のようなスパルタ指導」なんてしません。穏やかに「もうちょっとがんばろうね!」とか「おしい!もうちょっとで完全になるよ!」という風に励ましているんですが、毎年何人かは「もう無理……」なんて泣く子が発生してしまいます。かける言葉は穏やかですが、寸法間違いや、ぐにゃぐにゃ線を見逃さず、「うん、もう一回やってみよっか!」と、再度の作図を命じるからでしょうか。
「だいじょうぶだいじょうぶ。次の回には絶対にできるようになるって!」と励ましたり、なだめすかしたりしているうちに、段々できるようになってくれるんですが、まあなかなかの手間・労力ではあります(笑)。
保護者様方に伺うと、他の塾では作図は指導しないところもある模様。その方が「賢明」なのかもしれませんが、やっぱり子供たちがつまずきやすい部分をオミットするわけにもゆきません。
新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、完全少人数制宮田塾では、4〜5月はZOOMによる指導も行っていたんですが、折悪しく「作図」の部分に差しかかっている生徒さんもいました。私達が鈍くさいのも悪いんですが、やはり作図はZOOM経由だと指導が難しい。
「53度の角度を描く」なんて問題を解いてもらっても、画面越しだとどうも精密な判定ができません。Macのモニタに分度器を当てたりとか、なんかデジタルなのかアナログなのか分からない事をしておりました(笑)。結局、モニタの向こう側にいらっしゃる保護者様のお手を借りつつ指導しておりましたが、その節はご迷惑をお掛けしました。お力添えに感謝いたします。
さて、最近感心したケース。
小学低学年の生徒さんに「直角三角形」の作図を指導していたときのことです。「辺の長さが2cmと5cmの直角三角形を描きなさい」という問題がありました。
いつもはサクサクと問題を解いている生徒さんの鉛筆が止まっています。一定以上の時間(それは問題の難易度や生徒さんの力によって決定します)が経過しても解けていない場合、私か副代表のどちらかが生徒さんに声を掛けることにしていますが、私が見に行くと、「2cmの直線」と「5cmの直線」と「直角」がすでに描けていました(L字型が描かれていたとお考えください)。
「○○さん、ほぼ完全にできているよ。あとは、この部分に線を引いたらいいね。それででき上がりだよ。」
と、斜辺のところに線を引くように指で示すと、
「でも、ここの長さがわからないから……。」と同じ斜辺の部分を指で示します。
なるほど、それで分かりました。「三角形」は「三辺」からなるのだから、「三つの辺の長さ全てがわからなければいけない」というように考えているんですね!
もちろん、算数・数学的にはそんな必要はありません。中学数学で習いますよね、三角形の合同条件。あれと同じことで、
1.三辺の長さ
2.二辺とその間の角の大きさ
3.一辺とその両端の角の大きさ
上記のいずれかが分かれば三角形は一義的に決定します。今回の問題は、「二辺とその間の角の大きさ」が与えられているので、それ以上の情報は不要です。
でも、「三角形」は「三辺」からなるのだから、「三つの辺の長さ全てがわからなければいけない」と考えるのは、なかなか論理的で筋道の通った考え方じゃないでしょうか。確かに間違いではあるんですが、そういう風に自分の力でしっかりと考えて悩む姿勢はとてもいいですね。そういう人は後で必ず学力が伸びてきます。
とてもいい考え方をしていることを褒めた上で、そこ(斜辺の長さ)は分からなくても描けるんだよということを伝えます。
「そこの長さはね、正確には『ルート29』っていう難しい数字でしか言えない長さになるんだよ。これは中学校で習うはんいだから、今は気にせずにどんどん描いていこうね!」と伝えたところ、それ以降はサクサクと作図を進めてくれました。
子供たちの作図一つを見ても、本当にみんな千差万別。その子の性格や忍耐力・根気・思考力がうかがい知れます。