大阪市教育委員会が組み体操の段数に上限を設けた件について

9月到来。運動会の季節ですね。最近は運動会を5月に実施する学校も増えていますが、秋空の方が運動会に似合うと思うのは、私が古い人間だからでしょう。

受験生を見ている立場からすると、正直、「運動会らしさ」なんてものはどうでもいいんです。運動会はまだ時間的余裕のある5月にとっとと終えておいてもらいたい、多忙な秋に運動会練習で体力を消耗させることは避けてほしい、なんて願っています。ま、塾や保護者側の勝手な願いですが。


最近、運動会における「組み体操」の危険性がクローズアップされ出しました。例えば、こんな記事。

巨大化する組体操ピラミッド、最大200キロの負荷 大学准教授「これのどこが『教育』なのか」と指摘 : J-CASTニュース

各地でかなりの事故、訴訟が起きている

実際にどのような事故が起きているのだろうか。2004年兵庫県の中学校では、練習中に10段ピラミッドが崩れ、下敷きになった生徒4人が軽傷を負い、2人が経過入院した。14年にも熊本県の中学で、10段ピラミッドの練習中、8段目まで組み上がった時にバランスが崩れ、最下段の中央にいた生徒が第一腰椎(ようつい)を骨折した。

また、事故が訴訟に至ったケースもある。1990年、福岡県の県立高校で練習中のピラミッドが崩れ、最下段の中央にいた男子生徒がほかの生徒の下敷きになった。男子生徒は首の骨を折り、全身マヒの後遺症を負った。県は両親から損害賠償を訴えられ、福岡高裁から総額約1億1150万円の支払いを命じられた。

そのほか、静岡県の中学では下敷きになった生徒が頚椎骨折し、両親が学校を相手に訴訟を起こした。ピラミッド以外の事故でも、福岡の県立高校の男子生徒が肩車された際に後頭部から落下して首の骨を折り障害を負ったケースなど、各地で学校側の安全対策をめぐる裁判が行われた。

(以上、上記J-CASTニュースより引用)

私、小さな頃から、組み体操のような強制的団体競技がとりわけ苦手でして、なんでこんなことをせねばならんのだと常々思っていたんですが(笑)、子を持つ親サイドに立ってみても、やっぱりその考えは変わりません。論拠こそ「子供にわざわざこんな危険なことをさせなくてもよい」というふうに変わりましたが、組み体操を否定的に見ているという点では同じです。

もちろん、クラスの一体感を醸成する、一致団結して何かを成し遂げることの素晴らしさを学ぶ、などなどメリットは多々あろうかと思います。しかし、上記のように、大怪我や後遺症といった多大なリスクを負ってまで実施すべきものなのかどうか。同レベルまたはそれ以上の効果を、別の手段によって達成できるのではないか。

実際、私自身も塾生が負傷したケースを見ておりますが、やっぱり受験勉強に差し障り・不便は生じておりました。見事に合格されたので結果オーライですが、不合格だったなら……。

我が国の教育史をひもとくと、公教育の主目的が「良質なる国民の養成」つまり「質の高い兵隊の育成」であった時代は長く、今でもその残滓はところどころに残っていると思います。修学旅行は行軍演習から来ていますし、運動会なんかも軍事演習的なところからスタートしていたんじゃないでしょうか。

いや、私も「軍事にわずかでも関係していることは公教育から排除しろ」なんて短絡的に思っているわけではありません。今も昔も、公教育が子ども達に社会性や規律というものを教えているという点は、高く評価すべきだと考えていますから。

ただ、大怪我をしても、場合によっては命を賭けても、全体の目的に奉仕しろ、なんていうのはもう時代錯誤だと思うのです。大人が自発的に全体目的に奉仕する、それは全然構いません。でも、判断力の無い子どもに滅私奉公を強要するのは悪趣味ではないか。

大学の教養課程で、戦時下の教科書にみられる国民指導の移り変わりを学んだことがあります。「キグチコヘイハ死ンデモラッパヲハナシマセンデシタ」とか「肉弾三勇士」の話です。政府や軍の思惑があって、教科書の記載が変遷してゆくんですが、実際の歴史と重ね合わせてみると、とても面白かった覚えがあります。やっぱりいつの時代も、教育内容は時の政府の思惑と大きな関係があります。

そんな意味で、先日、大阪市教育委員会が市立学校での組み体操の段数に上限を設けることとしたのは英断だと思います。

大阪市 組み体操の段数に上限 – NHK 関西 NEWS WEB

上記NHKニュースによると、

2014年度の組み体操時に起きた事故は、大阪市の小学校で169件、大阪市の中学校で32件。このうち46人が骨折をした。

今年から大阪市立小学校では、四つんばいになって重なる「ピラミッド」型は最上限で5段まで、円形の塔を作る「タワー」型は最上限で3段までとする。

もう少し段数が少なくてもいい気はしますが、大きな前進だと思います。上記ニュースの映像を見ると、名古屋大学教育学部の内田良准教授が、組み体操の高層化・大規模化は、見栄えの良さが保護者や地域住民に喜ばれたためだと指摘なさっていますが、まさにその通りだと思います。

保護者は、子どもの身を危険にさらしてまで、安易な感動ストーリーに浸るべきではない。心や身体のもっと深いところで起きている子どもの成長に、目を注ぎ耳を傾けるべきではないかと(自戒を込めて)思う次第。学校や自治体側からしても訴訟リスクを減らせますしね。

ちなみに、体操やダンスが大の苦手の我が息子、この報道を聞いて欣喜雀躍、文字通り小躍りしておりました(笑)。