中学入試国語の語彙問題 − 分析と対策

西大和学園中学2018年の問題から

今日は中学入試国語の語彙問題を取り上げてみようと思います。いわゆる難関中学が入学を志望する小学6年生に何を求めているか、そして、当塾がそうした問題群に授業でどのように取り組んでいるかをご理解いただければ幸いです。

西大和学園中学2018年の問題を利用させてもらいましょう。大問1は山極寿一先生の霊長類研究の話、大問2が串田孫一の随筆、大問3が段落整序問題という構成でした。出題文の著者を見るだけで、かなり本格的な問題であることがご理解いただけるかもしれません。

今回取り上げるのは大問2串田孫一の随筆に関する問題です。この出題文、大人の私からすると非常に味わい深い随筆で、読んでいてとても快適な文章です(ちょっと志賀直哉テイストも感じさせる)。ただ、これを読みこなせる、というか味わえる小学6年生はあまりいないだろうと思います。味わうにはちょっと人生経験が必要になると申しますか……。そういう意味でやや「意地悪な」出題という気もしますが、受験生としては、何とかしのぐしかありません。

小問7を見てみましょう。

[X]と[Y]にあてはまる言葉の組み合わせとして最もふさわしいものを次の中から一つ選び、記号で答えなさい。

ア X 危機感 Y 展望
イ X 機会 Y 可能性
ウ X 能力 Y 宿命
エ X 意志 Y 力
オ X 可能性 Y 方向性

[X]と[Y]が含まれる段落は下記の通り。この段落だけで解けるようになっています。興味をお持ちの方は、受験生になったつもりで解いてみてください。

ちなみに、実際の試験問題では、難読漢字にルビがふられています。水蠆(やご)、這う(はう)、蜻蛉(とんぼ)、翅(はね)など。そこは受験生への配慮がちゃんとなされています。なお、この前の部分では、筆者が川辺で靴を脱ぎ、滑らない岩を見つけては裸足で飛び移っていくシーンが描かれています。

その岩の一つに、水蠆が這っていた。それを見つけるまでは、飛び移る時に滑らない用心ばかりをしていたが、注意してみると水蠆は方々の岩に這っていた。そして遂に蜻蛉の羽化にめぐり合った。生まれ出たばかりの蜻蛉は指先で触れてもまだ飛び立つ [X] はないが、伸ばした新しい翅には既に夏の大気を縦横に切って行く [Y] がみなぎっていた。

(串田孫一の随筆より引用)

もちろん私は1秒で解けますが(エヘン)、それは大人だからです。ではなぜ大人ならば即座に答えが導き出せるのか。それは語彙力が小学生より高いからです。

語彙力とは

語彙力というと、「単語の辞書的な意味を知っていること」と考えられがちですが、そんなに単純なものではありません(それで解ける問題ももちろん多いけれど)。本来は、当該単語に関する深い有機的な知識、具体的には、その単語が言葉全体の体系とどのようなつながりを持っているかに関する知識、といったものではなかろうかと思います。

例えば、単純な意味だけを知っていても、どのような構文で使われるかが分からなければ、正確にその単語を用いることはできません。

「一朝一夕(いっちょういっせき)」という言葉がありますが、この語は「わずかな時日」という意味を持っていることはほとんどの受験生が知っているはずです(というか知らなきゃダメです)。

ただ、「一朝一夕でプラモデルができた」とか「一朝一夕で親しい友人がたくさんできた」といった文章は正しい表現とは言えません。この四字熟語は打消表現(〜ない)を伴う構文でしか用いないからです。例えば「一朝一夕に学問は修められない」「新型コロナウイルスは一朝一夕で倒せる相手ではない」といった感じですね。

加えて、その単語がどのような単語や表現とよく用いられるのか、どのような言葉と親和性が高いのかも、重要な知識です。これを「共起性」と言いますが、平板な語彙の勉強をすると抜け落ちてしまいがちな情報だと思います。

先程取り上げた西大和学園の問題は、この辺りを聞いているのだろうと私は思います。単なる辞書的知識だけを問う問題ではないという意味で、良問ですね。

実際に問題を解いてみよう

まず、「[Y] がみなぎっていた。」というところに着目してみましょう。「みなぎる」という動詞はよく問題になるので(実際当塾のテキストに収録している別の問題でも取り上げていました)、ここからは授業風に。

「みなぎる」という動詞は漢字で書くと「漲る」と書きます。「さんずい」が水を表すのはみんなも知っていると思うけど、つくりの「張」はひろがりを表しています。水がひろがってきて溢れそうになっている感じですね。「表面張力」って知ってるかな?(とコップから溢れそうになっている水の(とても下手な)絵を描く)ちょうどこんなイメージを持ってもらうといいね。これが「みなぎる」という言葉のイメージ。

だから「みなぎる」のは液体とか、それに近いイメージのものになります。特に積極的なパワーを感じさせる言葉が多いですね。例えば、元気とか、生命力とか、活気とか、闘志とか。アンパンマンはバタコさんから顔を投げてもらって「勇気100倍アンパンマン!」って言うけど、あれはまさに勇気が「みなぎっている」わけです。

……と、こうした知識があれば、一発で「Y 力」とする「エ」が正解と判明します。他の選択肢の「展望」「可能性」「宿命」「方向性」という語に「積極的なパワー」は感じられません。

そんなわけで、単純そうに見える語彙問題もなかなか奥が深いことをご理解いただけたでしょうか。

語彙問題への対策

語彙問題への対策としては、やはり「深い語彙力」を付けるような勉強をすることになります。先程述べたような、単語が用いられる構文、その単語と共起性を持つ(よく一緒に用いられる)表現に気をつけながら勉強をして欲しいですね。

といっても、小学生にはなかなか難しいところがあると思います。当塾でお勧めするのは、新しい言葉に触れた時、必ずその言葉を用いた例文をしっかりと読むことです。できれば音読するといいですね。書写すればさらによし。特に受験生向けの語彙集を用いる際はそこに気を付けてもらえれば。

言葉はそれ一つだけで成り立つわけではありません。他の言葉との関連性もとても重要だということを受験生には分かってもらいたいと常々思っています。そういう意味で、ご家庭での大人との会話や読書体験は極めて有効なものです。

家庭での会話や読書体験が即座に国語の得点や成績を上げるわけではありませんが、長い目で見れば必ず役立ちます。おそらく、先程取り上げた西大和学園の問題なんかも、読書体験の豊富な小学生は(理屈はわからなくとも)、感覚的に正解に至れたのではないかと思います。言い換えれば、難関中学は受験生に、付け焼き刃ではない深い言葉への理解を求めているんでしょうね。

以上、受験生の語彙勉強の一助になれば幸いです。