連休を利用して、京都の宇治を散策してきました。
随分前から行こう行こうと思っていたんですが、なかなか機会が見つかりませんでした。中学生の頃、遠足で天ヶ瀬ダムに行ったきりですから、宇治を訪れるのは実に二十五六年ぶりということになります。
往復とも京阪電車を利用したんですが、電車マニアな6歳の息子は出発前から、「○○系に乗れたらいいな」「○○系の電車はウンタラカンタラ」などと、電車の話ばかり。「パパは大学にはずっと京阪電車で通ってたんだよ」と言うと、「それって○○系の電車だった?●●系の電車だった?」と聞かれます。知らんがな、そんなん……(笑)。
京阪電車中書島駅で一旦下車して、宇治線に乗り換え。今は中書島駅って特急が停車する駅になっているんですね。昔の京阪特急って、京橋を出発すると次は京都の七条まで停車しなかったんですが、ずいぶんきめ細かく停車する特急になった(なってしまった)ものです。
京阪宇治駅から、まず平等院鳳凰堂へ向かいます。歴史資料集などでさんざん見てきたこの鳳凰堂ですが、実は今回が初めての訪問。おおっ!本当に10円硬貨の通りだ!息子に10円玉を持たせてパチリ。みんな10円玉を出して記念撮影しているに違いない、と思っていたんですが、そんなアホなことをしているのは私たちだけでした……。
平等院鳳凰堂は、藤原道長とその子頼通が中心になって造営した寺院ですが、現世の極楽浄土と呼ばれただけあって、りっぱな建築物です。末法思想(仏法が衰弱滅亡してゆくという考え)や浄土思想が深く結びついている建造物ですが、それを除外しても趣深い。
宝物が収められた博物館も併設されているんですが、こちらも興味深いものでした。平安時代の文学を読むとき、浄土思想は必須の前提ですが、そうした古典の背景となる知識を深めるのにとても役立つ施設です。
個人的には、阿弥陀仏が死者を迎えに来る画、つまり「来迎図」に心惹かれました。来迎図って、なぜか阿弥陀如来が山を越えてくる構図になっていることが多いんですが、調べてみると下記のような背景があるようです。
その成立の背景には,古代以来の山岳に対する信仰があり,さらに山の端の稜線を此岸(穢土(えど))と彼岸(浄土)とを隔てるものとしてとらえる思想があった。
世界大百科事典「山越阿弥陀図」の項より引用
「山のあなたの空遠く 幸い住むと人のいう」という有名な詩句がありますが(詩:カール・ブッセ / 訳:上田敏)、この詩句が人口に膾炙しているのは、上記のような背景あってのことかもしれません。
まぁ、家族のメンバーはそんなことに全く興味はないので(笑)、宇治らしく茶そば屋さんで昼食をしたためた後、茶席に向かいます。
茶席といっても敷居の高いところではありません。前日にネットで調べておいた「対鳳庵(たいほうあん)」なる茶席です。この茶席は、宇治茶の振興や茶道の普及を目的として、宇治市が運営している市営茶室。営利目的ではないので、ほとんど実費のみで、きちんとしたお茶が楽しめます(一名500円・和菓子付き)。
とはいえ、リンク先にあります通り、茶室の造りは本格的。無粋な感じの市職員のおっちゃんがドボドボとお茶を入れる、なんてことはなく、ちゃんとしたお茶の道の方が、お茶を点ててくださいます。
簡単な作法を教わり、和菓子・お茶の順番で頂きます。お茶は「櫻花の露」という銘柄で、今頃の季節をイメージさせる風味があるとのことだったんですが、私のように鈍感な男にはよく分かりません。最初はちょっと緊張気味だった息子ですが、一口飲んでみて美味しさに目覚めた模様。ゴクゴク飲み干す姿を見て、お茶の先生も笑っていらっしゃいました。赤面。
<参考リンク>
市営茶室対鳳庵 | 宇治市 宇治茶と源氏物語のまち
宇治川沿いの散歩を楽しんでいると、遊覧船らしき船が川を上り下りしています。あれって予約なしでも乗れるのかな、と思いながら歩いていると、船着き場がありました。一名500円也(子供は300円)。これが思いの外楽しい!15分程度のクルーズなんですが、川面を渡る風が気持ちよく、平安貴族の川遊びもかくや、と体感することが出来ます。平安貴族になりきるには、ちょっと説明のナレーションがうるさい気はしますが……。
古典の世界で「あそぶ」と言えば、詩歌管弦の催しを行い楽しむこと。つまり詩歌を作ったり、音楽を演奏したり、歌舞をしたりして楽しむことです(大学入試では超頻出の基本単語!)。15分では「あそぶ」ことができませんが、いつか船を貸し切りにして「あそんで」みたいものです。
最後に向かったのは、源氏物語ミュージアム。源氏物語は全部で五十四帖ありますが、そのうちの最後十帖が「宇治十帖」と呼ばれます。私からすると、光源氏が出てこない「宇治十帖」は源氏物語のスピンアウト作品だという気がするんですが、宇治が源氏物語の舞台であることには変わりありません。
宇治市は、この宇治十帖を最大限に観光資産として活用していますが、センスの良い活用方法だと思います。ちなみに、滋賀県の石山寺も、紫式部が参籠して源氏物語を書いたという伝承を元に、イベントを行っています。
さて、この源氏物語ミュージアム、平安貴族の文化が立体的に理解できるようになっていて、私のような者にはとても面白い施設です。写真を撮影しても構わないようだったので(多分)、古典クイズとしていくつかをご紹介しましょう。
これが何と言う乗り物かはご存知ですよね。
「牛車(ぎっしゃ)」です。
ここからが問題。下の写真を見て下さいね。
問題1.車体の左右から前方に突き出た二本のかじ棒を何と呼ぶでしょうか。
問題2.上記の二本のかじ棒を置いたり、乗降する際に使う台を何と呼ぶでしょうか。
正解です。
1.「ながえ」です。漢字では「轅」と書きます。
2.「しじ」です。漢字では「榻」と書きます。
ちょっとマニアックな問題でしたでしょうか。でも、漢検一級には、これらの漢字が出てきます(意味は分からずとも合格できますが)。
次の問題。
この着物を掛けてある籠(かご)を「伏せ籠(ふせご)」と呼びますが、何のために利用していたのでしょうか?
正解です。
香炉や火鉢などをおおうように伏せ、上から衣服をかぶせて香を焚きしめるのに利用していました。この時代は、衣服に香を焚きしめるのが身だしなみ・ファッションの一つ。この香で自分の個性や魅力を際だたせるというわけです。私もよく伏せ籠を使ってユニクロの服に香りを付けています(ウソです)。
源氏物語では、子供時代の紫の上が、(目的外の使用ですが)すずめの子を閉じ込めておくのに使っているシーンが有名です。「すずめの子を犬君が逃がしつる。伏籠の中にこめたりつるものを。」
「すずめの子を犬君が逃がした~。伏籠の中に閉じ込めといたのに~。」と可愛い顔で残念がる紫の上。それを光源氏が見てドキッとするというシーンです。
大人になって初めて訪れた宇治でしたが、天候もよく、私も家族も満足の一日でした。