最近、ピコ太郎の「Pen-Pineapple-Apple-Pen (ペンパイナッポーアッポーペン)」というネタが流行っていますよね。
ジャスティン・ビーバーがトゥイッターで紹介したのをきっかけとして、大ブレイクしたらしいんですが、日本ではどこが面白いのかよく分からないと酷評されているような気がします。
小学生の息子から学校で流行っているという情報を聞き、私も上記動画を見たんですが、フフッと軽く笑っただけで、大爆笑には至りませんでした。しかし、何か心に引っかかるものがある。何だろう。何か思い出せそうで思い出せない。
数日後、ふと思い出したのが下記の漢文。明代に宋濂(そうれん:1310年〜1381年)という文人・政治家がいたんですが、彼の遺した文章の一つに下記のようなものがあります。
我邦文運衰微矣
案上有苹果鳳梨
朔方南地果豊成
併毛笔鳳苹熙笑
漢文は「ちんぷんかんぶん」いや「ちんぷんかんぷん」だという方のために、私の方で書き下し文と日本語訳を付けておきます。
我ガ邦ノ文運衰微シタルカナ
(我が国の文化の勢いはずいぶん衰えてしまったなあ。)
案上ニ苹果ト鳳梨有リ
(私の机の上にはリンゴとパイナップルがある)
朔方南地ニ果豊ニ成ル
(我が国土は北方でも南方でも果実が豊かに実っているのだ)
毛笔ト鳳苹ヲ併セテ熙笑ス
(手許にある筆とリンゴとパイナップルを併せて盛んに笑う)
解釈はこんな感じでしょうか。
宋濂は明代初頭の人。遥か遠い盛唐などを思って、我が国の文運が衰えたと嘆いているのでしょう。
二行目で場面は一転。机上にリンゴ(苹果)とパイナップル(鳳梨)が置かれている風景です。
三行目でその風景の意図するところが分かります。朔方、つまり国土の北方ではリンゴが成り、南方ではパイナップルが成る。我が国は何と豊かな国ではないか。
この豊かな国に在って、文化が衰微していってよいわけはない。文化・文学を比喩するペン(毛笔)をリンゴとパイナップルの傍らに置き、文運の隆盛を思い、盛んに笑っている。ちなみに「熙」という字は「興り盛んとなる・広がる・明るい・めでたい」という意味を持っています。文運隆盛を願う笑いなんですね。
ヤンキー・チンピラみたいな出で立ちで、ふざけた踊りを見せるピコ太郎ですが、私の想像が正しければ、この漢文をどこかで目にしたことがあって、それを下敷きにしてギャグを作ったのだろうと思います。
恐るべし、ピコ太郎!明代のインテリジェンスと、ジャスティン・ビーバーと、日本人の笑いを結びつけるとは。その高度な元ネタを一切明かしていないのもまた憎いところ。脱帽です。
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……なんてことがあったら面白いなと思うんですが、上記、漢詩も含めて全て私の創作です。
真に受けてしまった人、すみません。
ただ、もしも騙されたあなたが高校生・大学受験生なら、ちょっと勉強不足です。七言絶句は一句目、二句目、四句目で脚韻(文末の韻)を踏むというルールを知っていれば、ルール違反のおかしな文章になっていると気づくはずですからね(ちゃんと作り込む時間がなかってん(笑)……)。
そもそも、明の時代、リンゴとパイナップルが同時に入手できるはずもないでしょうし……。
さあ、もっともっと国語を勉強しましょう!(とむりやり塾ブログらしく終わる)。