赤ちゃん服を着た七十歳男性の話

前回の続き。『蒙求』の話。副代表との会話です。

「大昔の中国の話なんだけど、七十のおじいさんが幼児用のウェアを着て、そう、西松屋やアカチャンホンポで売ってるような子供服を着て、ダァ〜ダァ〜バブバブとか言いながら赤ちゃんぽい遊びをしてたんだよね。」

「何それ?キモっ!変態?」

「いやいや、その行為が『蒙求』では素晴らしい行為として褒められてるねん。何でだと思う?」

「う〜ん、輪廻転生みたいなこと?」

「どういうこと?」

「年老いて近々死ぬ運命にあるけれど、来世は確実にあって、また赤ちゃんからスタートできるんだよということを身をもって人々に知らしめたから、とか。」

「なるほどなるほど。でも違うんだよね。」

読者の方々はいかがお考えになったでしょうか?

あとは漢文を読んでいただきながら、正解をお伝えしましょう。ん?漢文が苦手ですって?意訳を付けておきますからご安心下さい(でも高校生は漢文を勉強しましょうね)。タイトルは「老萊斑衣」。

高士傳にいふ、老萊子は楚人なり。少にして孝行を以て親を養ひ、甘脆を極む。年七十にして、父母猶存す。

楚の国に老萊子という人がいて、若い頃から親孝行な人だったわけです。親にはいつも美味しい料理を用意する。で、老萊子さんが齢七十才になっても、ご両親はご健在でいらっしゃったと。

萊子荊蘭の衣を服し、嬰兒の戯れを親の前に爲し、言老いを稱せず。親の爲に食を取って堂に上り、足跌いて偃す。因つて嬰兒の啼を爲す。

老萊子さん、ご両親の前では、いつも西松屋やアカチャンホンポで買った派手派手な幼児ウェアを着用し、幼児の遊びをしてみせる。ダァ〜ダァ〜バブゥ〜。そしてまかり間違っても「老い」という言葉を口にしない。親の食事を運ぶ際につまずけば、赤ちゃんのようにウエ〜ンウエ〜ンと泣く。

これ、かなり恐い人ですよね。ダァ〜ダァ〜、バブバブ、ウエ〜ン。当年とって七十歳です(キリッ!)って言われても……。ちょっと署までご同行願えますか案件じゃなかろうか。

ただ一理はあります。自分が年端も行かない幼子であるかのように演じ、年老いた両親(この当時の中国ではあり得ないほどの長寿であったろうと思います)にまだ自分が若いと錯覚させる。それゆえ、『蒙求」ではこう評されています。

誠至中より發す。

これらの奇矯な行動は真実親を思う孝心から発したものである。

親孝行の表現方法がすごく極端なんですが、ここら辺はお国柄という感じがします。本居宣長なんかはこうした行動を「あざと過ぎ!」と言って否定的にご覧になるんですが、まあ日本・中国どっちもいいんじゃないでしょうか。やっぱり孝心って美しいと思います。

個人的には、清楚な女性もいいですし、あざとカワイイ女性もまたいいと思うんですよね、飾らずに生きる姿勢もよければ、好きな男性にに気に入られようと一生懸命に努力する姿勢もまたよし。って全然関係ない話ですね(笑)。

また気が向けば『蒙求』話を書きます。