弥生ついたち はつ燕

昨日ようやく確定申告を終了しました。これにて当塾の繁忙期は終了です。やった〜!冬去りぬ、春来たれり!

といっても、暇になるわけではありません。理想は「ヒマ→繁忙期だけ忙しい→ヒマ」なんですけれど、現実は「忙しい→繁忙期は超忙しい→忙しい」の繰り返し(笑)。まあ、この稼業は仕方がないですね。

ただ、寒さが和らぎ、暖かくなってきたことも相まって、開放感にあふれております。寒いの超苦手なんです。今年も「しもやけ」できてしもてん……。

さて、こんな日にぴったりの詩があります。上田敏の訳詩集『海潮音』の冒頭を飾る、ガブリエレ・ダンヌンチオの「燕の歌」です。

燕の歌 ガブリエレ・ダンヌンチオ

弥生ついたち、はつ燕、
海のあなたの静けき国の
便もてきぬ、うれしき文を。
春のはつ花、にほひを尋むる。
あゝ、よろこびのつばくらめ。
黒と白との染分縞は
春の心の舞姿。

弥生来にけり、如月は
風もろともに、けふ去りぬ。
栗鼠の毛衣脱ぎすてて、
綾子羽ぶたへ今様に、
春の川瀬をかちわたり、
しなだるゝ枝の森わけて、
舞ひつ、歌ひつ、足速の
恋慕の人ぞむれ遊ぶ。
岡に摘む花、菫ぐさ、
草は香りぬ、君ゆゑに、
素足の「春」の君ゆゑに。

(以下略)

「弥生来にけり、如月は 風もろともに、けふ去りぬ。」今日3月1日の私の気分そのものなんですよね。私は「よろこびのつばくらめ」ちゃんです(笑)。春の心に舞い踊る。

でも、本当に訳が上手いですよね、上田敏。七音節・五音節を崩している箇所は一つも無し。

「草は香りぬ、君ゆゑに、素足の「春」の君ゆゑに。」

くぅ〜、リズムといい、想起されるイメージといい、最高です。クサい表現を許してもらえるなら、エバーグリーンなフレーズです。

もうね、古風で知的なラブレターを書きたい人は、『海潮音』からパクりまくってください、じゃなかった、引用しまくってください(ちなみに明治三十八年の作品なので著作権は切れています)。

こんな詩も紹介しておきましょうか。

礼拝 フランソア・コペエ

(省略)

われ軍曹の任にしあれば、
精兵従へ推しゆく折りしも、
忽然として中天赤く、
鉱炉の紅舌さながらに、
虐殺せらるゝ婦女の声、
遙かには轟々の音とよもして、
歩毎に伏屍累々たり。

(以下略)

今日まさに世界のどこかで現前している風景。残念ながら人類は昔も今も愚かであり続けています。春は、戦場に命をかける季節であるより、恋文に悩む季節であってほしい。心からそう願っています。

注:青空文庫の方では、よみ仮名も記されています。ご興味のある方は下記リンクからどうぞ。

青空文庫 上田敏『海潮音』
https://www.aozora.gr.jp/cards/000235/files/2259_34474.html