数日前に行われた国立大学前期入試の問題が発表されていますが、国語、特に古文の問題についてのちょっとした雑感。
まず、京大文系古文。
後深草院二条の『とはずがたり』なんですが、比較的分かりやすい文章・問題だったように思います。『とはずがたり』は問題文としてよく利用される作品なので、背景を知っていた人も多かったかも。確か最近、この作品を使った入試問題で授業をした覚えがあるんですが、どの大学の対策としてやったのかうろ覚え(笑)。
そんなわけで、原文もある程度は読んでいますが、漫画『とはずがたり』が結構面白かった覚えがあります。ほとんどレディースコミック、いや、レディースコミックそのものの世界なんですよ(笑)。『とはずがたり』で語られる、後深草院二条の生涯は次の通り。
2歳で母に死別
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14歳で院の寵愛を受けるようになる
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別の恋人とも院の目を盗んで密会
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ドロドロの三角関係
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院の子、別の男性の子、二人の男性の子を相次いで出産
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次は別の高僧と深い仲に
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高僧の子を出産
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高僧死去
上記のような情事の告白がメインの作品なんです。ね、漫画向きでしょう?以前読んだ漫画は高僧の描写が特に秀逸でした。戒律を破って筆者と契りを結んでしまうイケメンな高僧。契りを結ぶ度に、「あぁ!何と罪深い!」と嘆きながら泣くんですが、それが何度も何度も繰り返されるんです。罪深いにも程があるわ!と突っ込みどころ満載。妻もその漫画を読んだので、しばらくの間、我が家では何か失敗する度に「あぁ、何と罪深い!」と言うのが流行ったほどです。伏し目がちに声を振るわせながら言うのがポイント(笑)。
全然問題の解説になってなくてすみません。
次は京大理系古文。
猿丸大夫の和歌について二つの解釈が示されており、その相違点を説明するという問題。京大型の模試などでよく見かけるタイプの問題ですし、落ち着いて対処出来た人が多かったのではないかと思います。
古文では「鹿の声」というと、風流を感じさせるものということを知っておくと良かったですね。古文の世界では、「鹿の鳴き声」は妻を恋い慕う声と考えられていて、それを題材とした文章が結構あります。と言いつつ、鹿の鳴き声がどんな声かはよく知らないんですが……。奈良公園に行ってもあんまり鳴いているところに出くわさないんですよね。
次に東大。東大古文は文理共通です。
今年は井原西鶴。私の敬愛する西鶴先生なんですが、この人はちょっと異常な天才肌の人で、文章も華麗そのもの。文学史では浮世草子作家(今で言う流行小説家ですね)と習いますので、あまりそんな感じがしないかもしれませんが、もともとは俳諧の道の人。言葉や文章に対する感覚が異常に鋭い人だと思うんですよね。そしてそれが作品に一貫して現れる、というのではないところがまた面白い。なんかいい加減な構成の文章だな、と思っていると、文章の一画で急激に文学が爆発する、そんな感じの人です。
そんな理由で、結構入試問題にはしにくい作者だと思うんですよね。実際、数年前にセンター試験で出されたときは異常なほどの低得点率でした(笑)。受験生にしたら笑い事ではありませんが。
私、同じ大阪人として西鶴をとても尊敬しているんですが、彼の面白みが爆発しているジャンルが、いわゆる「好色物」と「経済物」。前者が出題されることはまず無いと思いますが、後者は時に出題されることがあります。2014年度の東大は『世間胸算用』を引っ張ってきました。
かつて大坂は日本の経済的な首都でしたが、その大坂を根城にする西鶴には、どこまでもリアルな金銭・経済観念がありました。もともとは商売の家に生まれた人ですからね。今回の東大の出題は、そのリアルな経済感覚から生まれた教育学とでも評すべき文章。「子どもの頃からセコセコ金儲けなんてしなくていーんだよ!子どもの頃はしっかりと勉強したり遊んだりする方が結局は裕福になるんだよ!」という話なんですが、私も全く同感。
幼い頃から会社四季報を見て株に投資、長じてエリート大学を出て官僚になるも退職してファンドを運営、大金持ちになるも捕まって……なんて話がありましたが、やっぱり何か寒いものを感じますよね。東大側もそういう学生に来て欲しくないな、と思っているんじゃないかなと邪推(笑)。
こちらも全然解説になっていませんが、雑感と言うことでご容赦あれかし。