ノーベル賞と大阪府立高校

何だかめちゃくちゃに忙しい日々が続いておりまして、ブログも御無沙汰気味。書きたいことはいくらでもありますが、まあぼちぼちと。

先月(2021年7月)、大阪大学の特任教授でいらっしゃる審良静男(あきらしずお)先生が奈良の山中にて遭難なさったというニュースが報じられました。

私も妻も大阪府立高津高校の卒業生なんですが、審良先生は高校の大先輩。無事でいらっしゃることを夫婦で願っておりました。程なく無事発見されたというニュースが報じられ、私たちも一安心いたしましたが、お怪我をなさっているとの由。早期回復を祈っております。

私たちが案じていたのは、審良先生が高校の先輩でいらっしゃるというよりも、免疫学の世界的権威でいらっしゃるからです。まだまだ研究・教育していただかなければ日本の・世界の損失になってしまいます。

高津高校の先輩方には凄まじく有能な方々がいらっしゃいます。伊藤忠商事株式会社の代表取締役会長・岡藤正広氏(高津高校→東大)と、川崎重工業の前代表取締役会長・村山滋氏(高津高校→京大)が同期で、その期には有名な学者さんやお役人が何名もいらっしゃったり。他の期にもそうした方々がゴロゴロいらっしゃるので、私のような馬の骨は肩身が狭いわけですが(笑)、審良先生はそのなかでもとりわけ高名な学者でいらっしゃるのではないかと思います。

審良静男 – Wikipedia

Wikipediaによると、日本学士院会員、文化功労者でいらっしゃるだけでなく、「世界で最も注目された研究者ランキング」で2005年度と2006年度に第1位になるなど、同ランキングに5年連続でランクインされたとの由。確か論文被引用数も、日本人トップでいらっしゃるとの報道を目にしたこともあります。

そんな業績の方ですから、「ノーベル賞に最も近い日本人」と毎年のように報じられていた時期がありました。が、こういうレベルの賞というのは「運」もあるんでしょうね。海外の学者がほぼ同一の研究内容でノーベル賞を受賞し、審良先生の受賞の可能性は消滅しました(同一の研究内容に再度ノーベル賞が与えられることはありません)。

先輩がノーベル賞を受賞されるであろうと期待していた我々後輩達には、少々ショッキングなニュースとして伝わりました。というのも、もし審良先生が受賞なされば、大阪府立旧トップ高校初の自然科学ノーベル賞受賞となっていたからです。

このあたりは府立高校OBOGでないと掴みにくい感覚ですので、少し説明を加えておきます。かなりの長期にわたって(今調べると1973年度から2006年度までですね)、大阪府立高校は居住区域をもとにした9学区制が採られていました。第1学区から第9学区それぞれ、(建前的には否定されていたものの)偏差値によってピラミッド状にトップ高校から序列が付けられていました。

例えば第1学区のトップ高校は北野高校、第2学区は茨木高校、第3学区は大手前高校、第6学区は天王寺高校といった具合。わが高津高校は第5学区のトップ高校でした。

私の小学生時代は、地域的な特色もあるでしょうが、中学受験は特にポピュラーではありませんでした。勉強のできる子は地元公立中→学区トップ高校→国公立大学というルートを辿るものなのだ、みたいな感覚がなんとなく子供たちにも保護者にも共有されておりまして、一応(一応はね)勉強が得意だった私もそのルートで育ってきたわけです。

で、各トップ高校同士にはこれまた何となくライバル心・競争心みたいなものがあったんですよね。私は陸上部に所属していましたが、記録会の同じレースで天王寺高校の選手がいたりすると「あいつだけには負けんとこ」みたいな(笑)。先輩方もそうだったので、おそらくは府立トップ高校の学生間で広く共有されていた感覚ではないかと思います。

その反面、同志感もありまして、大学で友人と話していて相手が大阪府立トップ高校だと妙に親近感を感じました。「おっ!○○君って、大手前高校なんや!俺高津高校やねん!(ニコニコ)」というような感じ。

そうした感覚をもとにお読みいただきたいんですが、もっとも自由でリベラルな学校であった高津高校の生徒は、かなりスパルタ風味のある北野高校には他校に対してよりも少し強めのライバル心があったように思います(北野高校のスパルタ体育は有名で、OBの手塚治虫氏などはよほど骨身にこたえたのか、何度か漫画にしていたはず。ちなみに北野高校OGには岡田あーみんという偉大な漫画家さんもいらっしゃるんですが、これはちょっと脱線しすぎですかね)。

加えて、教育水準の高いとされる北摂地域を擁する北野高校は、進学成績において高津高校を上回る感じがあり、そのあたりも微妙にライバル心に影響を及ぼしていたかと思います。

上記のような次第で、私たち高津高校の生徒達は、他のトップ高校に抱く「負けへんで」という感覚が、こと北野高校が相手だと「絶対に負けへんで」に少しグレードアップするのでした(笑)。卒業してずいぶん経ったOBOGの多くも、「ことノーベル賞に関しては北野より高津の方が上なんだよね〜」と言える日を待ち望んでいたのではないかと想像します。

そんな高津高校OBOGからすると、2019年の吉野彰氏のノーベル化学賞受賞の報は、めでたいもののやや複雑な気持ちにもさせられるニュースでした。もちろん、日本人が、関西人が、大阪人がノーベル賞の栄光に輝くのは素晴らしいことです。ただ、吉野彰氏は北野高校OB。高津高校OBOGとしては、北野高校にまたしても先を越された感が(笑)。

いや、半分冗談のささいな郷土心・愛校心の話ではあるんですけどね。ただ、現在のように大阪府内全域を単一の学区とした結果、北野高校と天王寺高校が図抜けた存在となり、その他の旧トップ高校が両校の後塵を拝しているのを少し寂しく思う気持ちもあったり……。

頼りない私たちOBOGが言うのも何ですが、母校の後輩達がさらに活躍してくれることを願っています。


ちなみに、大阪府立高校と関係のあるノーベル受賞者は次の通り。

1968年 川端康成/文学賞/府立茨木高校

1981年 福井謙一/化学賞/府立今宮高校

2008年 下村脩/化学賞/府立住吉高校

2019年 吉野彰/化学賞/府立北野高校

2012年の山中伸弥氏は(医学・生理学賞) は大阪教育大学附属高校天王寺校舎なので、府立高校ではなく国立高校です。灘高校は遠藤周作が最もノーベル賞に近いと言われていたそうですが、2001年の野依良治氏(化学賞) が最初の受賞者となりました。

参考にさせていただいた資料
図録▽日本人ノーベル賞受賞者の出身高校・出身大学