スタインベック・綿矢りさ・車谷長吉・三浦しをん・松浦寿輝・三島邦弘

なかなか読書時間が取れないのが悩みなんですが、iPhone6Plus(要するに大きい方の新iPhoneです)に乗り換えたので、少し読書量が増えるかもと淡い期待を抱いています。

ここ数年は、書籍を購入すると原則として即座に裁断&スキャンして勝手に電子書籍化しているので(いわゆる「自炊」)、iPadなどのモバイル機器で読書することが多くなっていたんですが、常時持ち運んでいるiPhoneだと、小さすぎて読書するのは苦しかったんですよね。iPhone6Plusは、電話としては大きすぎる気がしますが、1ヶ月で2〜3回ぐらいしか携帯電話を掛けない私にはどうでもいい話。携帯しやすいサイズでありながら、読書には最低限の大きさを備えているので、購入したその日から使いまくりです。

ただ、やっぱり絶対的な時間不足を何とかしないことには、読書量を増やすことは難しいんですけどね……。

最近読んだ本で印象深かったのは、次の作品。

怒りの葡萄〔新訳版〕(上) (ハヤカワepi文庫)
ジョンスタインベック

怒りの葡萄〔新訳版〕(上) (ハヤカワepi文庫)

以前にも少し書きましたが、これは良い作品でした。作品を通して描かれるのは持てる者と持たざる者の軋轢、そして持たざる者の悲哀。1930年代ほど露骨でなくとも、この構造は2010年代も大きくは変わりません。出版当時は「社会主義的」「アカ的」な作品だと忌み嫌う人も多かったようなんですが、それはアメリカの共産主義憎悪に染まりきった見方でしょう。

異常なほどの社会的格差が生じた場合、例えばこの小説では、持てる者は異常な量の耕地を眠らせたままにし、一方では貧民が餓死してゆく様子が描かれるんですが、この状況を何とかせねばならないと考えるのは、政治思想以前の問題だと思います。

最近読んだヴァージニア・ウルフとスタインベックは同時代の人(解説を読んで気付きました)。前者の『灯台へ』は、あまりに主観的・観念的な小説で閉口したんですが、『怒りの葡萄』はちょうどその逆。どこまでも客観的で地に足の付いた表現しか出てこないと言って過言ではありません。個人的には後者のような小説の方が好みです。

どうでもいい話ですが、小説を読みながら、よく勝手に脳内キャスティングしています。トム・ジョードはジェイソン・ステイサム、ローザシャーンはクロエ・グレース・モレッツを当てはめて読んでいました。これから読む人は、是非このキャスティングで読んで下さいね(笑)。

旅・Intermot・ヴァージニアウルフ:国語塾・宮田塾のブログ

勝手にふるえてろ (文春文庫)
綿矢りさ

勝手にふるえてろ (文春文庫)

妻にもらった(奪った)本。面白くて一気に読了。綿矢りさの小説を読んでいて思い浮かべる登場女性像はこんな感じ。

クラスで目立つ存在ではないけれど、よく見ると美人な女性。打ち解けて色々と話してみると、おだやかな口調ながらかなり毒舌。その毒舌は、芸能人のようにキャラを演じているわけではない。その賢さ・観察眼の鋭さ故に、素直に話せば話すほど、毒舌になってしまう。感触としては「ナンシー関」と話しているような感じ。

この作品で、主人公は、片思いし続けている男性を「イチ」と呼び、言い寄ってくる同僚男性をとりあえずキープして「ニ」と呼んでいるんですが、「イチ」に関する思い入れと「ニ」に対する無関心さが見事なまでに対比されます。

帰りのタクシーで隣に座ったニが距離をつめてきた。ニはスープ系の体臭、飛行機で出される油の浮いたコンソメスープと同じにおいがする。つねにだしが効いている。前世がおでんの具だったのかもしれない。

お風呂場で読んでいたんですが、思わず吹き出しました。

妖談 (文春文庫)
車谷長吉

妖談 (文春文庫)

相変わらずの車谷節。人間の業。人の業を覗き見るのは楽しいんですが、子供は読んではいけません(笑)。

車谷長吉『贋世捨人』:国語塾・宮田塾のブログ
車谷長吉『人生の救い』:国語塾・宮田塾のブログ

舟を編む (光文社文庫)
三浦しをん

舟を編む (光文社文庫)

何年か前に初めて書店で見かけた際、小規模な造船業の話なのかな、と勝手に思ってスルーしていたんですが(だってちょっと前の作品は林業が舞台だったし)、映画の予告編を見て驚きました。何と辞書作成の現場が舞台。これは読まねばと思いつつ、読んだのはつい最近。面白すぎました。

自分では(何となく)辞書編纂の仕事って天職じゃなかっただろうかと夢想することがあるんですが、そんな人間には楽しすぎる作品です。三浦しをん氏、辞書とか文楽とか、興味分野がかなり重なっていて他人とは思えない気が(笑)。

三浦しをん『仏果を得ず』と有川浩『阪急電車』少々:国語塾・宮田塾のブログ

ついでに最近購入した作品。

川の光2 – タミーを救え!
松浦寿輝

川の光2 - タミーを救え!

第2巻が出ていることを全然知りませんでした。メチャクチャ驚くと共に、早く教えてくれないと困るじゃないか!と、思わず誰にともなく(Amazonに?)叫んでしまったぐらい、読むのが楽しみな作品です。

ご本人が前巻の後書きに、もうこんな小説を書く時間はないだろうとおっしゃっていたのを信じていたんですよね。そりゃ、東大の教授をしつつ、詩人・評論家・小説家・翻訳家と何足もの草鞋を履いていれば時間がないよな(私も最初は同姓同名の人だと思っていた)、と納得していたんですが、こんな大部(600ページ超)の第二弾が出ていたなんて!

第一巻、誇り高きねずみ一家の物語は、優しさと勇気と愛に満ちあふれているんですが、それが全然押しつけがましくないんです。私のようなひねくれた大人からすると、児童文学には、押しつけがましいところが臭ってしまって読めない作品が多いんですが、この『川の光』はそういう臭みとは無縁です。

老若男女、誰にでもお薦めできる珍しい小説なので、また読了して落ち着いたら記事にする予定。そうそう、第一巻は中学入試の問題にも何度か採用されています。

計画と無計画のあいだ「自由が丘のほがらかな出版社」の話 (河出文庫)
三島邦弘

計画と無計画のあいだ: 「自由が丘のほがらかな出版社」の話 (河出文庫)

インディペンデントなところが当塾のヒントになるかも、なんて思って購入しました。またゆっくり読もう。