昨日見つけたライブ動画の話。
以前にも何度か取り上げたことのある Tiny Desk Concert の動画です。説明は前に書いたのでそれを引用。
NPRMusicというのはアメリカのラジオ局なんですが、ここの小さなオフィスにミュージシャンを呼んで、演奏してもらった映像が “Tiny Desk Concert”。オフィス机が置かれた本当に小さなスペースで数々の名演が繰り広げられます。
呼んでくる音楽家達の人選のセンスがとにかく素晴らしい。有名どころもいれば、(世間的には)全くの無名の新人もいるんですが、創意工夫に富んだ音楽を紡ぎ出す人たちという点において共通性があります。
実は、毎日のように見ているチャンネルでして(Macに向かって用事をしているときに見ているのです)、このチャンネルで出会ったミュージシャンは数知れず。
自分で書いたんですから当然ですが(笑)、本当にその通りです。
取り上げる音楽家の範囲、質、深さにおいて、Tiny Desk Concert が、世界トップレベルのラジオ局&YouTubeチャンネルである事は私が保証します(私がしてもあまり意味はないが)。
で、誕生日の昨日もいつものようにこのチャンネルを見てみると、新着動画にヨーヨー・マが。世界的チェリストなのでご存知の方も多いと思いますが、経歴をWikipediaから引用しておきます。
1960年、4歳でチェロを始める以前の幼少の頃より、ヴァイオリンやヴィオラを習い、5歳にしてすでに観衆を前に演奏を行った。7歳の時にはジョン・F・ケネディの前で演奏した。また、8歳でレナード・バーンスタインが行ったコンサートでアメリカのテレビに出演した。クラシック音楽から現代音楽までの幅広いレパートリーを持ち、デビュー当時のテクニックは世界最高ともいわれていた。
1976年に、ハーバード大学を卒業、人類学の学位を取得した。ジュリアード音楽院でレナード・ローズの下に学んでいたが、教師に「君に教えることはもう何もない」といわれ、コロンビア大学を経てハーバード大学に入学したという逸話がある。それでも1970年代にパブロ・カザルスの偉大さに触れるまではまだ学習を続けるべきか否かを迷っていたという。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ヨーヨー・マ より引用
ハーバード卒のインテリでもあるという事は知っていましたが、専攻が人類学だったとは。音楽関係じゃなかったんですね。
実はヨーヨー・マ、以前にもこの Tiny Desk Concert に出演なさっています。アメリカン・ルーツ・ミュージックを探求する弦楽四重奏楽団、とでも説明すればよいでしょうか、Yo-Yo Ma, Edgar Meyer, Chris Thile And Stuart Duncan 名義で6年前に。これも素晴らしい名演でしたので、リンクを張っておきますね。
Yo-Yo Ma, Edgar Meyer, Chris Thile And Stuart Duncan: NPR Music Tiny Desk Concert
おっと肝心の今回の動画はこちら。
Yo-Yo Ma: NPR Music Tiny Desk Concert
今回は超ど真ん中の豪速球。バッハ無伴奏チェロ組曲です。しかも Cello Suite No.1 のそのまた初っぱな Prelude です。うわ〜、いいねいいね。
以前、アンナ・ビルスマのバッハ無伴奏チェロ組曲を記事にした事があります。
この曲を聴くといつもふと頭をよぎるのが、「木」とか「森」とか「緑」といった言葉。一応大学でドイツ語を履修したので、Baum, Walt, Grün なんて単語が浮かびます(あ、単語が浮かぶだけで全く文章にはなりませぬ(笑))。
ヨーヨー・マの演奏を聴いてもやはり、深い森の風景が浮かんできます。でも、何だろう。すごく胸の奥深くに響いてくる。気がついたら、恥ずかしながら涙が溢れてきていました。
あれ、こんなに聴きなれた曲なのに何でだろう、何でだろう。
彼の話を聞くとこんなことを話しています。
信じてもらえるかどうか分からないけど、この曲は私が4歳の時に初めてチェロで演奏した曲なんだ。初日はこんな風にね。「ターラララタラララ、ターラララタラララ」二日目はこんな風に。三日目はこんな風に。
こんな偉大なチェリストにも初めての日があったんですね(それが4歳というのが凄いですが)。夏休み期間で聴衆に子どもが多かったんでしょうか、彼は宿題の話もからめます。みんな宿題ってするよね、もう終わったよね(笑)なんて言いながら。
音楽の練習と同じ事なんだよ。コツコツやっていると、昨日と同じに見えて少し違ってくる。何かを習う時、少しずつ少しずつ習得したなら、決して苦しくはないんだよ。
ああ、いい事をおっしゃって下さっています。生徒にも聞かせたいぐらい。何かを習うのはコツコツやるに限ります。それが結局は苦しくないし、気がついたら大きく成長していることにつながるんですよね。人間そんなにすぐに成長できるものではないという事は、大人も含めて、否、大人こそ理解しておくべき事だと思います。
そして私が強く胸打たれたのは次の話。
Embedded in the way I play is actually, in many ways, everything I’ve experienced.
私の演奏には、私が今まで経験してきた事のすべてが、あらゆる意味で刻み込まれている、といった意味です。
納得です。だから目頭が熱くなるんですね。音楽に真摯に向きあって努力を重ね続けてきた彼の人生の、その全てが演奏に反映されている。
その後の No.6 Sarabande も No.3 Gigue もやっぱり最高。って、調べたら今月(2018年8月)、バッハ無伴奏チェロ組曲の3度目の録音が発売されていたんですね。早速AppleMusicのライブラリに登録。
今月はジョン・コルトレーンの未発表録音発掘盤ばかり聴いていたんですが、9月はこの盤をよく聴くことになりそうです。はぁ〜、幸せだあ。