かぶき者の歌舞伎

先日、某歌舞伎役者が殴られて大怪我をしたというニュースがありました。酒癖があまり良くなく、トラブルに巻き込まれたとの由。

たまには歌舞伎について書いてみましょう。

私、古典芸能は全般的に好きでして、能・狂言・文楽・歌舞伎・落語などなど、好き嫌いなく何でも鑑賞する方です。中でも文楽が特に好きなんですが、これはまたいずれ。

よく勘違いなさっている方がいるんですが、歌舞伎って、原則として、文部科学省が推薦するような「教育によい」類の演劇ではありません。狂言(演目)にもよりますが、えげつない人間の欲望を描いていたり、塾ブログではとうてい書けないようなアダルトな内容を扱っていたりで、どちらかというと、子供に見せたい内容ではない(笑)。長唄(歌舞伎のBGMだと思って下さい)の歌詞もよく聴いてみると、かなりヤバイものがあります。まぁ、文学的なオブラートには包まれていますけれど。

こいつは春から縁起がいいわえ」という有名な文句は、盗賊が下級遊女から大金を奪い、川に突き落とした後の台詞ですし(『三人吉三廓初買』)、「知らざぁ言って聞かせやしょう」は、女装をした盗賊が、恐喝に入ったものの見破られて、自己紹介する際の台詞です(『青砥縞花紅彩画』)。

ちょっとひどすぎる(笑)。

しかし、そうした過激性が庶民の心をつかみ、今に至るまで歌舞伎を生き延びさせたわけです。かくいう私も歌舞伎の過激さが好きなんですけどね。

そもそも、「歌舞伎」の語源は「傾く(かぶく)」にあります。

「傾く(かぶく)」のもともとの意味は、漢字を見れば分かるように、「かたむく」ということですが、そこから転じて「異様で派手な身なりや振る舞いをする」という意味を表すようになりました。

16世紀後半に「かぶいた」奴らが始めた踊りや演劇が「かぶき」。今風に言えば、派手な格好をした無頼者・ヤンキーが街で踊りまくっていたら人気が出てきた、というようなところでしょうか。出雲阿国(いずものおくに)なんかは歴史の教科書にも出てきます。阿国の愛人と言われる名古屋山三(なごやさんざ)も「かぶき者」の一人。美少女に間違われるほどのものすごい美少年だったらしいんですが、二十歳そこそこで「生きすぎたりや」なんて言い、実際に刃傷事件で死んでしまうわけです。まさに「The かぶき者」。

こうした流れから言えば、今回の某歌舞伎役者の一件は、いかにも「かぶき」だと言えるのかもしれません。しかし、今は平成の世の中。なかなか人々に理解されそうにはありません。