早朝のご来客 #2

前回の続きです。

電話で警察の方に詳しい事情をご説明し、できるだけ早めに警察官を派遣していただくようお願いしました。

教室でご休憩なさっているご婦人を、(失礼ながら)よく観察すると、上品なお召し物を着ていらっしゃいますし、着衣・靴などに汚れや乱れが見られません。おそらく、迷子(ご家族からすると行方不明)になられてから、そう時間は経過していないように思われます。

加えて、おっしゃる内容に比較的最近の事柄が反映されているので、認知に問題が発生しだしたのは、それほど昔のことではないことも推知されます。

勝手に想像するに、ご家族と一緒にお住まいであるものの、記憶が少し混乱なさる→皆の寝静まっている夜分または早朝に家を出てしまう→道に迷ってしまう、といったところでしょうか。

そういう事情であれば、まだ捜索願も出ていないかもしれません。ただ、いずれにせよ、こうした際の情報センターは警察になりますから、そちらにお任せすべきでしょう。

通報の後、教室に戻って、再び世間話です。

私「このあたり、早朝にパトカーがよくパトロールしてくれているんですよ。いつもこれぐらいに回ってくるんですけどね。私より警察の方のほうがよくマンション名も知っていらっしゃるでしょうし、ちょっと待ってみましょうか。」

ご婦人「それだと有り難いですわ。」

ほどなくしてパトカーがやってきました。嘘も方便、大きく手を振って止める振り(笑)。あとは、警察の方々にお任せできそうです。

ただ、パトカーが赤色ライトを点滅させながらやってきて、警察官4名が教室に入ったので、外部から見ると誤解されそうな……。

「あの塾長、何か犯罪でもしたのかな?」

「なんかやりそうな奴だと思ってたよ。」

「朝から逮捕しにくるなんて凶悪犯罪じゃないの?」

ち、違いますから!
私、善良な一市民ですから!

上記のように誤解されるのを避けるべく、教室の外で警察の方とお話をしながら、事態を見ておりました。(実際、野次馬が数名発生(笑)。)

警察の方も仕事ですから仕方がないんですが、そばで見ていると、けっこう詰問調です。

(大きい声で)「おばあちゃん!名前は!」「家はどこ!身元の分かるものは!」「電話番号は!」

矢継ぎ早の詰問にご婦人はたじたじのご様子。耳が遠いわけでもないので、かなり萎縮されているように見えました。もちろん、私も世間話の中で、同様の内容をそれとなく聞いてはいたんですが、その度に違う答が返ってきておりまして、警察の方が尋ねてもやはり同じ事でした。

「ちょっと持ち物見るよ!」と警察の方が、ご婦人のカバンを調べたんですが、身元の分かるものは入っていなかった模様。これ、仮に犯罪の捜査なら限界事例だよなぁ、などと思いながら見ておりました(もちろん今回のケースは刑事事件ではありませんけれど)。

結局、ご婦人は警察の方々が保護して下さったんですが、その後の顛末(てんまつ)は分かりません。家族一同で、あの後どうなさっただろうと気を揉んでいますが、警察に電話で問い合わせるのも迷惑な話でしょうし……。

お怪我もなく、ご家族のもとに無事お帰りになっていることを願っています。