中学入試対策としての外来語指導

中学入試国語では外来語(漢語ではなく西洋語とお考え下さい)の知識が問われることがあります。ただ、この分野、学校によって姿勢は結構異なりまして、積極的に出題する学校もあれば、全く出題しない学校もあります。

灘中なんかは外来語積極派ですね。外来語が日々増大してゆく言語状況を是認・肯定する立場と言ってよいかもしれません。一方東大寺学園中については、ほとんど外来語問題を見たことがありません。外来語の氾濫する現代日本の言語状況とはしっかり距離を置き、古式ゆかしき日本語を重んじる立場とでも言いましょうか。実際、かなり高度な漢字の問題が出題されます。

どちらが優れているかという話ではありません。どちらも名門中学国語科の説得力ある立場だと思います。ただ受験生としては、志望校の傾向に合わせて語彙を増やしておく必要がありますね。


先日受験生を指導していて「プロセス」という言葉が出てきました。この語とほぼ同義の熟語を本文の指定部分より抜き出せという問題でして、正解は「道筋」。

もちろん大人からすれば、英語の知識から「過程」じゃないのかと思うんですが、本文の指定部分に「過程」という語は含まれていませんでした。

で、ここからが本題。

この問題を教えた際、生徒さんから「回路」はダメなのかという質問がありました。いい質問ですね。確かに「回路」は本文指定部分内に含まれている語です。

もちろん、「回路」が解答になることはないんですが、皆さんなら小学生にどう説明しようと思われますでしょうか。最近は、英語の知識が豊富な小学生も多いので(英検2級や英検準2級を持っている小学生も結構いる)、英語の知識で説明するということも考えられますが、ここは純粋に日本語の知識だけで説明すると考えてみて下さい。

黒板に描いた図をiPadで描いてみました。黒板の時よりさらに不細工な字になっています(言い訳)。

 

まず「『プロセス』とは『結果』に繋がるものだ」ということが本文から明らかなので、そのイメージを大切にしないとなりません。

「過程」の「」は「すぎる」ですから、どこかへ進んでいく・通るイメージがありますよね。「道筋」の「」もどこかへ通じるものというイメージがあります。そもそもそれらの漢字に共通する「しんにょう(辶)」は、「道を行く」という意味があることも思い出すといいですね。

そうすると「過程」とか「道筋」という言葉は、黒板に描いたように、「結果」に繋がっていくイメージが持ちやすい言葉だと言えます。だからここでは「道筋」が正解になります。

一方、「回路」の「」はまわる・ぐるぐるめぐるというイメージですよね。どこかに繋がってゆくというイメージはなくて、同じところを回っているわけです。だから「結果」に繋がらない。理科で習う「電気回路」って同じところをぐるぐる電流が回っていて、どこかに電流が流れ着くという感じはしないですよね。

ということで、「プロセス」に対応する日本語として「回路」は不適切ということになります。


英語にかなり親しんでいる年齢なら、もう英語そのもので解説した方がいい気もします。

process に含まれる pro という接頭辞は「先の方に」という意味がある。例えば、progress(進歩=先の方に進むこと)、prospect(見込み=先の方を見越すこと)。そうだとすれば、「プロセス」は先の方に進むイメージが必要。だから解答としては、「回路」より「道筋」が適切。

「回路」は英語で circuit 。レースが行われるサーキットをイメージするといいけれど、これはどこか外部の「結果」に繋がっていくイメージのない言葉。そもそも cir という接頭辞は「回る」という意味があるはず。例えば、circle(円・輪)、circulate(循環する)。やっぱり「結果」に繋がっていくイメージはなくて、くるくる同じ所を回るイメージ。

小学校で英語指導の時間が増えてきているので、そのうち外来語の指導は英語を使った説明になっていくのかもしれません。個人的には全然ウェルカムですが、小学校が英語の授業時間を増やすことはあまり賢明な方針でないと考えています(日本語の習得を不十分にしてしまう可能性が高い)。時代の流れですかね。