最近、少し気になっていたのが岡倉天心(覚三)のこと。天心は日本美術の総帥といっていい人だと思いますが、彼のことについては通り一遍の事しか知りませんでした。
ふとしたきっかけから、岡倉天心の天衣無縫な言動や文章を知るに至り、段々と彼に惹かれて始めている、というのが私の現状。何というのでしょうか、あらゆる宗教の向こうに輝いてある哲理だとか、美の奥にある本質の把握だとか、そうした部分が心の琴線にふれまくりんぐでございます。
いや、塾ブログなので変にくだけなくてもいいですかね。彼の残した文章をちょっとご紹介しましょう。『日本美術史』から。
美術史を研究するの要、豈啻に過去を記するに止まらんや。また須らく未来の美術を作為するの地をなさざるべからず。吾人は即ち未来の美術を作りつつあるなり。
顧れば、溟濛として半ば其の形状を没するの過去あり。前には渺茫として際涯を知らざる将来あり。此の両間に処して其の任を全うせんとする、亦難い哉。殊に明治今日に於ける吾人の責任重且つ大なるや言を待たず。諸子知らずや、学藝、技術、宗教、風俗等、皆其の基準に於て大変動を生ぜるを。此の時に方りて、美術独り超然として其の影響を蒙らざるの理あらんや。
内容もいいんですが、文体がすごくリズミカルで読んでいて心地よいんですよね。もちろん、漢文法を徹底的に自分のものにしている明治人ゆえに出せるリズム感ではあるんですが、それ以上に、(あくまで私の推測ですが)天心って音楽をよく聴いていたんじゃなかろうか。
私の経験上、音楽をよく聴く人はやっぱり文章もリズムや音程が整っている傾向があるんですよね。最近も村上春樹が同旨の話をしていて、意を強くしたんですけれど、受験のレベルではそんなことを気にする必要は全くありませんので、ご安心を。
え?漢文っぽい文章は意味が分からない?困りましたね、漢文ぐらいはちゃんと勉強しておかないと。上記天心の文章の大意はこんなところです。
「美術史研究は過去を記録するにとどまるものではない。未来を築くものなのである。ぼんやりして形の見えない過去と、果てしない未来の間にあって、その二つの任務を果たすことは困難であるが、自分の責任は重大である。学問・宗教・風俗あらゆるものが大きな変貌をとげてゆくこの時代に、美術だけがその影響を免れることはありえない。」
これ、岡倉天心が東京美術学校(今の東京藝術大学美術学部)の初代校長を務めていた頃の講義を元にした文章のはずですが、このときの天心、齢27歳。凄すぎ。
そんなふうに岡倉天心のことを考えながら過ごしていたある日のこと。ネットニュースでこんなアニメの紹介を見つけました。
『おしえて北斎!-THE ANIMATION-』予告編
何と!主人公の名前は「岡倉てんこりん」じゃないですか!
日本美術の総帥たる岡倉天心を元にしたと思われる名前の「岡倉てんこりん」は、一流の絵師になりたいという願いは強いものの、行動がまったく伴わない女子高生。風神雷神図(by俵屋宗達)から飛び出てきた「雷神」が、彼女のために日本美術史に燦然と輝く絵師達を霊界から招来し、絵画の本質をレクチャーさせる、というのがおおまかな筋書き。
今は有料になっているようですが、その際はAbemaで無料で観賞できたので、シリーズ10話分、全て見ました。これがまためちゃくちゃ良かったんですよ!
ギャグ仕立てではあるんですが、絵師のメッセージに嘘はありません。ちゃんと東京国立博物館の監修を受けている本格派(何度もアニメ内に東博がでてきます)。美術史に疎い私ですが、勉強になりました。
「先達に教えてもらって伸びてゆく」という点で、塾に通じるところが大いに大いにあります。例えば、第2話では洋画家・髙橋由一が招来されるんですが、彼はてんこりんにこうレクチャーします。
「努力は大切だが、無駄な努力をするな。正しい努力を積み重ねろ。」
もうね、首がもげそうなぐらい縦に振りたい気分です。正しくない努力をいくらしたって無駄です、いや、有害です。自分は努力していると思っている分、修正される機会もなく、どんどんおかしな方向に進んでいってしまう。そんなツマラナイ事態を避けるには、やっぱり「優れた先達」の教えを乞うのが一番。私達が優れているかどうかは別として、塾では生徒さん達に「正しい努力」をしてもらうことに、最大の意を注いでいます。
他に狩野永徳や上村松園のレクチャーもよろしかったどすなぁ。
原則としてアニメを見ることはあまりないんですが、これは本当にお勧め。一話10分で全10話。合計100分を二日に分けて見ましたが、インテレクチュアルな話を楽しく伝えつつ、最後はほろっと来させるところもあり、秀逸なアニメだと思いました。
オープニングの歌も、なんだかなじみ深い声。あれっ、この声は「CHAI(チャイ)」なのでは?とクレジットを見ているとやっぱりCHAIじゃないですか!
CHAIは名古屋出身の女子4人組バンド。『PINK』(2017)も『PUNK』(2019)も、私の中ではヘビーローテーション化していたアルバムです。息子とドライブに出かけた際、CHAIばっかりかけていて、息子に閉口されたことがあるぐらい(笑)。分類としてはオルタナ系ということになるでしょうが、そんなジャンル分けを軽々越えていく力のある彼女達、海外で大人気なのも納得です。
そんなCHAIを起用するところも、『おしえて北斎!』、何ともセンスがいいんですよね。第9話のデッサン甲子園にチラッと彼女達が参加しているシーンも、私は見逃しませんでしたぞ(笑)。
CHAI – THIS IS CHAI – LIVE at STUDIO COAST
色々書きましたので最後にまとめ。
岡倉天心凄い。『おしえて北斎!』面白い。CHAI最高。