「漢検生涯学習ネットワーク」という組織があります。漢検1級・準1級の合格者を対象とした会員制の組織で、漢字文化に関するセミナーを開催したり、定期的な通信を発行したりしています。
漢検生涯学習ネットワーク・漢検1級合格者の分布:国語塾・宮田塾のブログ
私も加入しているんですが、時々会報誌や研修会の案内が送られてきます。これがなかなか面白いんですよね。有名教授のエッセイ、合格体験記、国語教員の授業レポートなどなど。読みたい人は合格すべし。
今号(2011年11月発行の第3号)も面白かったんですが、私が特に興味を引かれた記事をご紹介しましょう。
読者からの投稿なんですが、投稿者はフランスから帰国した日本の方。翻訳の仕事をなさっているそうなんですが、原文の理解よりも、的確に表現する日本語の語彙不足に苦しんでいたとのこと。そこで一念発起し、漢検1級に挑戦。その中で漢字の語源や故事来歴、漢文的な修辞法などを学び、日本語の言語体系を整理されたとの由。
ここからは投稿文を引用させて頂きましょう。引用元は、漢検生涯学習ネットワーク会員通信 2011年11月発行第3号 4ページ 東京都高橋氏の投稿です。
翻訳は記号としての言葉の置き換えではなく、異なる思想体系や異文化に橋を架ける難事業です。東と西の違いや共通点を見極めて融和させなければなりません。
全くその通りだと思います。翻訳というのは、言語だけではなく、二つの文化や思想の架橋です。言葉の力を高めてゆけばゆくほど、その奥深さに気づく。翻訳する際、外国語の力が重要なのはもちろんですが、それ以上に母語の力が大切になってきます。単に外国語の意味を理解することと、母語に橋渡し(翻訳)することには、大きな大きな隔たりがあります。
こうしたことを意識して母語(日本語)を磨く翻訳家がどれほどいるのかは存じ上げませんが、きっとこの方はレベルの高い翻訳をなさる方だろうと想像します。
それでも時おり言葉の奥に凝縮された神髄に触れたとき、不意に言霊が訪れて耳元で囁いてくれるように。(中略) 彫刻家が完成した像をイメージしながら、迷うことなく彫り進めるような喜びです。
私もいつもとは言えませんが、時々そういうことがあります。英語の文章を読んでいて、和語や漢語の表現がピタッと頭の中ではまったとき、言葉というものの妙味を感じます。まだまだ勉強は足りませんが……。
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