前回(ラップ・ミュージックの話)の続き、気になるアーティスト、Kanye West (カニエ・ウェスト)の話です。
詳しいプロフィールはこちら。
カニエ・ウェスト – Wikipedia
確かにカニエ、ちょっと言動が過激でお騒がせな人というイメージがあります。TV(カトリーナ災害に関する報道番組)の生放送中に、「George Bush doesn’t care about black people! (ブッシュは黒人のことなんて関心ねーんだよ!)」と発言して大問題になったり、グラミー賞授賞式でわざわざ要らざる事を言い、オバマ大統領に「Jackass(間抜け野郎)」と呼ばれたり(笑)。
ただ、曲を聴いたりしていると、根本的には知性的な人だという感じがあります。母親が博士号持ちの黒人女性教授だったという環境も大きく影響しているのでしょう。
そんな彼のニューアルバム、「My Beautiful Dark Twisted Fantasy」が11月後半に発表されました。年末発売の日本盤を待とうかとも考えたんですが、待てずに輸入盤を購入してしまいました。
「美しくも陰鬱かつ邪悪なる我が幻想」とでも和訳しましょうか、こんなタイトルを付けたら売れませんかね(笑)。聴きながらこの記事を書いているんですが、タイトル通り、ラップ・ミュージックらしからぬ美しさと陰鬱さに充ち満ちています。
欧米の音楽雑誌も軒並み満点評価をつけたと聞いていますが、評論家好みの「コンセプチュアル」なアルバムです。気軽に聴きにくいというきらいはありますが、ラップの地平を切り開いてゆくアルバムであることは間違いありません。
彼の歌唱(ラップ)は、意識的なのか無意識的なのか分かりませんが、リズムのジャストタイミングから微妙に言葉を遅らせている気味があります。これが曲全体に浮遊感を与えている要因でしょう。
あと、サンプリングしてくる曲とその使い方が天才的に上手い。今回ですと、King Crimson の 「21st Century Schizoid Man」(かつては「21世紀の精神異常者」と訳されていましたが、今なら「21世紀の統合失調症患者」でしょうか)がサンプリングされているんですが、King Crimson というラップと最も遠いところにあるバンドの曲が、これしか考えられないというほど完全に楽曲の中に埋め込まれています。
Kanye West – POWER
システィーナ礼拝堂に描かれたミケランジェロの宗教画のような構図。面白いですね。
このアルバムに付随して40分程度のムービーも作成されているんですが、そちらはアルバム発売前に息子とiPadで見ました。アルバムの趣旨(美しくも陰鬱かつ邪悪なる我が幻想)を十分に表現しているアーティスティックな映像です。当ブログには適していない部分もあるので、リンクは張りません。
私の購入したのは輸入盤なんですが、開封してみるとカニエのアルバムには珍しく「Parental Advisory Explicit Content」のシールが貼られていません。これ、輸入盤をよく買う人にはおなじみですが、「露骨な内容で、子どもが鑑賞する際に保護者の指導が必要」という意味の警告シールです。
あれれと思って、ネット上の歌詞と突き合わせながら聴いてみると、曲のあちこちで歌詞が削られています。決定的な部分までも……。
例えば、「All Of The Lights」のカニエの歌い出しの部分。訳はブログ作成者。
Something wrong.
I hold my head.
MJ gone.
Our nigger dead!何かが狂っている。
俺は頭を抱える。
マイケルジャクソンは逝った。
俺たちの兄貴が死んだんだ!
ここで「nigger」という語は差別的な意味で用いられているわけではありません。カニエは黒人ですし、明らかにマイケル・ジャクソンへの敬意・愛情を込めた表現です。
私の持っているアルバムでは、「Our (無音) dead!」 となっておりまして、アーティストの意向を害すること甚だしい。興ざめなことこの上ありません。日本盤にしておけばよかっただろうかと、少し後悔。
最後に、彼の資質をよく表しているクリップも紹介しておきましょう。前々アルバム「Graduation」からのシングルカット。監督は今をときめく村上隆です。私、この曲で遅ればせながらカニエのファンになったんですけどね。卒業証書授与のところで映像を止めてよく見てみると、「ドロップアウト大学、ヒップホップ学士号」とあって芸が細かい!
Kanye West – Good Morning