定額の音楽配信サービスに思うこと

塾の方は年末年始休業に入らせてもらっています。大阪を遠く離れ、温泉につかってのんびり過ごしています……、なんて言いたいところですが、そんな時間的余裕はありません。山積みになった用事を今こそこなさねば。授業こそないものの、忙しさは平時とあまり変わらない。はぁ。

あんまり羽を伸ばしすぎても、受験生に顔向けできない気がする、というのも大きいんですけどね。

そんな中で、やっぱり音楽や読書は手軽に楽しめるリフレッシュ方法。まあ、完全に日常の一部になっているので、あんまりリフレッシュの手段という気はしないんですけれど……。


2015年、アップル社が「AppleMusic」という定額の音楽配信サービスを始めたんですが、これがかなり私の音楽ライフを変えてくれました。いや、変えてしまいやがりました(笑)。

いや、有り難いんですよ、邦楽洋楽を問わず、ポピュラー音楽のかなりの部分をカバーしていて、クラシック音楽も結構聴けて、ジャズの重要作品もほとんど聴ける。これを無制限に利用できて、たったの980円/月ですから。

月に結構な額のCDを購入していた私の感覚からすると、激安といっていいレベルです。しかもAmazonに配送を頼んだりしなくても、思い立ったらすぐに聴けます。right now, right here! 契約を更新し続ける限り、MacでもiPhoneでも無限に聴けます。

ここ数年、CDを買うことに躊躇を覚えるようになってきていたんですよね。購入しても利用するのは一回だけ。Macにリッピング(取り込み)すれば、あとはCDラックに収めるだけなんですから。ジャケットを見たいときも、検索すればOK。アーティストの情報を知りたいときも、検索すればOK。隣の部屋のCDラックに向かう必要すら無い。

そこにこの「AppleMusic」なる定額音楽配信サービスです。アーティスト名やアルバム名で検索を掛ければ、一瞬で聴きたい作品が見つかり、フルアルバムが享受できる。楽しみにしていた作品も、発売当日にそうして聴けてしまうとなると、なかなかCD購入までには至りません。

だって、CDを購入しても入手できる「音楽」という情報・体験は何も変わらないわけですし、むしろ、邪魔な物体が増えるだけとも言えるわけですから。

結構音楽が好きで、それなりに音楽関連の消費をしていた人間ですらこれなんですから、そうでない人びとは推して知るべし。定額音楽配信サービスで十分過ぎるほど十分です。

最近、「CDが売れない」という話をよく聞きますが、売れる方がおかしいですよ。もう世の中、音楽という「情報」は「媒体購入」によって入手するものではなく、「配信」によって入手するものになっていると思います。しかも定額支払い&無制限配信。

AppleMusicを契約した初日、夜の2時ぐらいから色々な作品を見て回ったんですが、「うわ!こんなアルバムがある!」「わわっ!これ聴いてみたかったんだよな!」と一人で大盛り上がり。異常な集中力を発揮して、膨大な数のアルバムを自分のプレイリストに登録しました。嬉しすぎる、嬉しすぎる!気がついたら朝の9時でした(笑)。

あまり興味のなかったアーティストの作品を気軽に聴いてみて、一気にファンになるなんていうのも、この種のサービスならでは。テイラー・スウィフトの「1989」(今年一番売れたアルバムです)をよく聴いていたんですが、妻からは「一体何があったん?」と不思議がられる始末。「いっつも『変な』曲ばっかり聴いているのに」って、やかましいわ(笑)。

ただ、嬉しい反面、少し寂しい気がするのも事実です。

音楽に対する尊敬の念が薄れそうな気がするんですよね。ちょうど、生きてゆくのに必要不可欠なものである「空気」に、有り難みを感じないのと同じように。

平野啓一郎がどこかに書いていましたが、バッハであれモーツァルトであれ、その生涯で聞いたことがある音楽は、私達よりはるかに少なかったはずなんですよね。そのことを考えると、自分はなんて愚かで貪欲な消費者なのだろうかと思わざるを得ません。

でも、もう後戻りはできないでしょうね……。


この記事を書きながらも、AppleMusicで音楽を聴いています。さっき見つけた、Martin Stadtfeld の バッハ「イタリアン・コンチェルト」。私好みの演奏で、少し前なら絶対にCDを購入していたはず。

世の中は移りにけりな……。

J.S.Bach: Italian Concerto in F Major BWV 971 4. Presto [Martin Stadtfeld]