小規模店の実力 – レコード店の思い出

私は大の音楽ファン。高校生の頃からマニアックなレコード店に出向いては、あれこれと試聴させてもらい、レコード(当時はCDなどありませんでした)を購入するのが大の楽しみでした。

今から20年ほど前、私が高校生・大学生だった頃は、大阪や京都にも小規模な専門的レコード店が本当にたくさんあったんですよ。

欧米のアンダーグラウンドなロックしか扱わないレコード店。民族音楽の品揃えが異様に充実しているレコード店。ソウルやR&Bしか扱わないレコード店などなど。ご存知の方もいらっしゃるかも知れませんが、心斎橋にあった某レコード店などは、断固としてブルースしか扱わず、店頭にデカデカと「ファンクありません!」と書かれていた覚えがあります。ブルース好きな店主が、「スライ&ザ・ファミリー・ストーンのレコードはどこですか?」「ジョージ・クリントンのレコードはありませんか?」と尋ねられるのに業を煮やしたんだろうと想像しておりましたが……。

確かにどの店も面積自体は小さく、決して大量の在庫があるというわけではなかったんですが、専門的なだけにオーナーやバイトの知識量は半端無く、こちらが欲しい音盤はほぼ間違いなく置いてあるという場だったんですね。今考えてみると、本当に素晴らしい店だったと思います。

CD時代に入ってからは、タワレコやHMVといった大規模なCDショップが幅を利かせるようになり、上記のようなレコード店は段々と消えてゆきました。私も、やむを得ず大規模店を利用することが多くなりました。確かに、何でも雑食的に聴く私からすると、何軒もハシゴしなくて済む大規模店は便利なことは便利だったんですが、何か物足りない。

そんなある日、某大手CDショップの前を通りかかると、「太平洋音楽フェア」なる催しが行われていました。そのCDショップは、「専門的な品揃えが自慢、専門知識豊富なスタッフが応対!」を売り文句にしていましたので、ここならあのCDが手に入るかも!と思った私は喜び勇んで店に入ったわけです。

私「あの、ギャビー・パヒヌイのCDを探しているんですが。」

専門スタッフ「ギャビ、パヒ?もう一度お願いします。」

私「ギャビー・パヒヌイです。ハワイの有名な歌手で、スラックキーギターの……。」

専門スタッフ「(しばし無言のあと)知らないですね……。」

ここで説明しておきますと、ギャビー・パヒヌイ(Gabby Pahinui)はハワイの国宝的歌手です。ハワイは太平洋のど真ん中にありますし、ハワイアン音楽も音楽のジャンルとして決してマイナーなジャンルではありません。言うなれば、「演歌の専門家です、何でも聞いて下さい」と自称する人が北島三郎を知らない、といった感じです。

そんなことが何度かあって、私は大手CDショップを信頼することが出来なくなってしまいました。

今、冷静に振り返ってみると、大手CDショップの物足りなさは、オーナーやアルバイトの知識不足、もっと大げさに言えば、音楽への愛情不足に起因していたんじゃなかろうかと思います。

そして現在。AmazonやHMVといったオンライン上のCDショップで、大抵の音盤が手に入るようになりました。音楽関係の情報も、日本語にこだわらなければ、ほとんどネット上で手に入ります。さらにiTunesストアなどを使えば、電子的音楽データが瞬間的に送られてくるわけで、そもそも音盤自体が媒介しません。音盤を探し回るという行為は、一応過去のものになったと言えるでしょう。

そういう意味で、音楽が好きな人には本当に有り難い時代になりました。が、その一方で、かつての小さな専門的レコード店に郷愁を感じてしまうことも否めません。私自身が小規模な塾を運営しているからでしょうか……。「本質的な力は、小規模な所の方が遙かに高いことがある」という、やや我田引水的な話で擱筆(笑)。

kauai beauty – gabby pahinui


詩情溢れるハワイアン。